コワイモノ
第1夜 ピイ
妻の葉子は昨年、流産した
玄関の小さな段差で転倒したのだ。
それがこたえたのだろう精神的にまいっているようだ。
そんなある日
「ねえあなた、あそこを見て」
妻の指差した方を見てもただの庭しかない。
「亡くなったあのこが生まれ変わって私たちに会いに来たのよ」
私はなにもいないと言いたかったが
葉子にムダな負担をかけたくない。
「そうだな、きっと君に会いに来たんだよ」
※
次の日も妻は庭に指を指して
「あ、また来たわ、わたしたちの子供…」
「ほんとだね…」
私は妻に適当に合わせながらも
庭になにか黒い影が見えたような気がした。
※
数日たっても相変わらず妻は庭を見つめている
「また、僕らの子供がいるのかい?」
「え、ええ…」妻は口ごもりながら答えた。
※
今日は久しぶりに妻が出掛けていた
私はなんとなくいつも、妻が眺めていた庭に目をやる
いる
なにかがいる
庭に植えている木…その上になにかがいる
私はそっと庭に出てみた
木に近づいておそるおそる見上げる
「………!」
頭の大きな子供
頭だけが異様に大きく、胴体がガリガリで小さい
目は暗い大きな穴が空いているかのように真っ黒だ
そいつが、庭の木の枝に座っている。
「ピイ」
頭の大きな子供は言葉を発した
「ピイ」
別の場所からも声が聞こえる
よく見ると
無数の頭の大きな子供たちが木の枝に座っていた。
暗く虚ろな目で私を見下ろしている
私はそのまま、気を失った
※
「主人の病状はどうなんでしょう」
病院の医師が答える
「病状というよりも精神的にかなりショックをうけてます」
「主人ったら、私が流産をしてから気がふさぎがちだったんです」
医師は症状を詳しく聞きながらカルテをとる。
「それで私ある日、庭の木にムクドリの親子が巣を作っているのを見つけたんです、ヒナもいてそれはかわいくて」
医師はペンを落としたがまた、拾って書き続ける
「それで、主人を元気づけるためにあのこ…ムクドリのヒナのことですけど、ヒナのいる巣を指差して言ってあげたんです
亡くなったあのこが生まれ変わって私たちに会いに来たのよって
そうしたら主人は四六時中、庭を眺めるようになっちゃって…
あの人、ほんとにムクドリを自分の子だと思い込んじゃってるのかしら…」
※
医師はその夜、所見をかく。
「葉子の夫、悠生は葉子の流産直後から精神的に錯乱状態にあった、恐らく幻覚が見えるレベルまで症状が進行していたのだ
亡くなった子供が見えると叫んでいる
しかし、なぜ悠生はここまで追い詰められていたのだろう?確かに父親もショックを受けるだろうが、一時でも自身の腹に子供を宿していた妻のほうが、流産をすると精神的に追い詰められるものではないだろうか」
※
現在、悠生は精神病棟の隔離部屋にいる。
「ピイ」
頭の大きな子供が悠生の部屋の窓の鉄格子から覗いている
「ああ!うるさい!私を見るな!」
なおも、頭の大きな子供は数を増やしているようだ
「ピイ」「ピイ」「ピイ」「ピイ」「ピイ」「ピイピイピイピイピイピイ…」
「あの日、葉子を突き飛ばして流産させたのは俺だ…許してくれ…頼む…」
玄関の小さな段差で転倒したのだ。
それがこたえたのだろう精神的にまいっているようだ。
そんなある日
「ねえあなた、あそこを見て」
妻の指差した方を見てもただの庭しかない。
「亡くなったあのこが生まれ変わって私たちに会いに来たのよ」
私はなにもいないと言いたかったが
葉子にムダな負担をかけたくない。
「そうだな、きっと君に会いに来たんだよ」
※
次の日も妻は庭に指を指して
「あ、また来たわ、わたしたちの子供…」
「ほんとだね…」
私は妻に適当に合わせながらも
庭になにか黒い影が見えたような気がした。
※
数日たっても相変わらず妻は庭を見つめている
「また、僕らの子供がいるのかい?」
「え、ええ…」妻は口ごもりながら答えた。
※
今日は久しぶりに妻が出掛けていた
私はなんとなくいつも、妻が眺めていた庭に目をやる
いる
なにかがいる
庭に植えている木…その上になにかがいる
私はそっと庭に出てみた
木に近づいておそるおそる見上げる
「………!」
頭の大きな子供
頭だけが異様に大きく、胴体がガリガリで小さい
目は暗い大きな穴が空いているかのように真っ黒だ
そいつが、庭の木の枝に座っている。
「ピイ」
頭の大きな子供は言葉を発した
「ピイ」
別の場所からも声が聞こえる
よく見ると
無数の頭の大きな子供たちが木の枝に座っていた。
暗く虚ろな目で私を見下ろしている
私はそのまま、気を失った
※
「主人の病状はどうなんでしょう」
病院の医師が答える
「病状というよりも精神的にかなりショックをうけてます」
「主人ったら、私が流産をしてから気がふさぎがちだったんです」
医師は症状を詳しく聞きながらカルテをとる。
「それで私ある日、庭の木にムクドリの親子が巣を作っているのを見つけたんです、ヒナもいてそれはかわいくて」
医師はペンを落としたがまた、拾って書き続ける
「それで、主人を元気づけるためにあのこ…ムクドリのヒナのことですけど、ヒナのいる巣を指差して言ってあげたんです
亡くなったあのこが生まれ変わって私たちに会いに来たのよって
そうしたら主人は四六時中、庭を眺めるようになっちゃって…
あの人、ほんとにムクドリを自分の子だと思い込んじゃってるのかしら…」
※
医師はその夜、所見をかく。
「葉子の夫、悠生は葉子の流産直後から精神的に錯乱状態にあった、恐らく幻覚が見えるレベルまで症状が進行していたのだ
亡くなった子供が見えると叫んでいる
しかし、なぜ悠生はここまで追い詰められていたのだろう?確かに父親もショックを受けるだろうが、一時でも自身の腹に子供を宿していた妻のほうが、流産をすると精神的に追い詰められるものではないだろうか」
※
現在、悠生は精神病棟の隔離部屋にいる。
「ピイ」
頭の大きな子供が悠生の部屋の窓の鉄格子から覗いている
「ああ!うるさい!私を見るな!」
なおも、頭の大きな子供は数を増やしているようだ
「ピイ」「ピイ」「ピイ」「ピイ」「ピイ」「ピイピイピイピイピイピイ…」
「あの日、葉子を突き飛ばして流産させたのは俺だ…許してくれ…頼む…」
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