人魚のお姫様

この人に何を言っても無駄だ、とエラは黙って流れていく景色を見つめていた。貴族の持つ馬車とは比べ物にならない豪華さだからか、街の人たちの目が輝いている。

「……私をどうするんですか？」

エラが訊ねると、「俺と結婚してもらう」とディランは言いエラの隣に座った。

「ち、近ッ……」

逃げようとするエラの腕を捕まえ、ディランはエラの腕に口付ける。異性にこんなことを突然され、エラは頰を赤く染めた。

「確か……」

ディランの手がエラに伸ばされる。エラの頰にディランは触れた。女性のものより硬い手だ。ディランの指がエラの唇を撫でる。

「真実の愛のキスで人間になれるんだろ？」

ディランの言葉に、エラは驚く。なぜ家族以外は知らない秘密を知っているのだろうか。エラがディランを見つめると、「覚えてねえのか」とディランは呟いた。

「俺は、よく城を抜け出して街に出かけていた。ある日、お前と遊んでいたら急に雨が降ってきたんだ。その時に、人魚になったお前を見た」