人魚のお姫様
その時に、幼いエラは人間に戻れる方法を教えたらしい。そんなことがあったんだ、とエラは驚くばかりだ。

「ほら、もうすぐ王宮だ。お前の新しい家になる」

「いや、勝手に決めないでください」

「約束をしただろ?」

「子どもの頃のものですよ?」

「そんなもの俺には関係ない」

エラが遠くからしか見たことがない王宮が現れる。馬車はそこに停まり、御者が緊張したように扉を開けた。

「ほら」

ディランがエラに手を差し出す。エラが躊躇すると、「こうしろ」とディランは強引にエラに手を握らせた。

「お前は俺から離れるなよ」

普通の恋愛ならば、これほど嬉しい言葉はないだろう。エラは頰を赤く染める。しかし……。

彼は王子。エラは人間と人魚のハーフで、平民。身分の差は大きい。恋に落ちたとしても、叶うことはない。

ディランと手をつなぎ、歩きながらエラは思った。

王宮の中など、エラは想像したこともなかった。ただ、豪華なものであふれているということ以外は考えることもできなかった。しかし、王宮には長く赤い絨毯が敷かれ、エラが目にしたこともない豪華な宝飾が施された調度品があちこちに置かれている。
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