愛してる 〜必ず戻る、必ず守る〜

6話

 カフェから駅へと向かう加波子と健。ゆっくり歩く2人。健は加波子に何も聞かなかった。なぜ作り笑いをするのか、本心はどこにあるのか。

 駅に着く。連絡先の交換をした。

「さっきはごめん。」
「いえ、私のほうこそ。不快な思いをさせてしまって、すみませんでした。」
「またコーヒーを飲む誘いの返事はもらってない。ラインする。」
「はい…。」

 健はちゃんと覚えていた。加波子に返事を考える時間を与えなかった。

 加波子は軽く頭を下げ駅に入る。改札を通る。ホームに向かう。その後ろ姿を健はずっと見ていた。加波子が見えなくなるまでずっと。それを加波子は知るはずもない。

 電車内、駅、帰り道。加波子はずっと、その日1日のことを振り返り考えていた。今日一体何があり、何を思ったのか。加波子にとっては刺激の強すぎる1日だった。

 アパートに着く。いつも通り郵便ポストを見る。同じ手紙が2通入っていた。なぜ同じ手紙が届いたのか、不思議に思う加波子。

 見てみると、自分の字で『鈴木 亮』と書かれた手紙だった。加波子はハッとする。それまで考えていたことが全てふっ飛ぶ。加波子は急いで部屋に帰る。

 手紙が返ってきたのだ。亮へ宛てた手紙が。刑務所の一覧を見る。返ってきた手紙の場所に線を引く。

「ここと、ここには…いない…。」

 加波子は逸る気持ちで一杯だったが、我慢せざるをえなかった。目を閉じ深いため息をした後、化粧を落とす。

「私今日、何してたんだろ…。」

 鏡に映る、浮かない顔の自分を見る。首元のネックレスも。その2通の手紙をベッドのサイドテーブルに置き眠る。明日という日を待って。

 そして明日という日、翌日。仕事終わり。加波子は友江と居酒屋・古都へ来ていた。

「かんぱーい!暑い日の仕事後のビールは格別だわー。で、昨日どうしたの?あの後。」
「昨日?あの後?」
「健さん…だっけ?二次会来ないで2人で消えたじゃない。どうしたのよ??」
「あ、その話ですか。駅まで送ってくれただけですよ。途中でコーヒー飲みましたけど。それだけです。」
「連絡先は?教えたのよね?」
「はい。一応。でも何もありませんよ。私からも何もしてないですし。」

 ジンジャエールを飲む加波子。友江はニヤニヤしている。

「何ですか先輩…気持ち悪い…。」
「試してるのよ、カナを。泳がせてるの。」
「試す?」
「そう。自分に会いたくて会いたくて仕方なくなるカナを待ってるのよ。駆け引きよ、駆け引き。」
「駆け引き?何ですかそれ、めんどくさい。会いたければ会えばいいじゃないですか。」
「恋愛には時には駆け引きが必要なの!カナはこれから勉強しなさい!」

 自分の話題が嫌になった加波子は友江に振る。

「昨日といえば。何なんですか?あれ。私見てましたよ、先輩のこと。暇だったんで。」
「何って何よ。」
「先輩、まるで仕切り屋さんでした。料理が来たらきれいに分けてみんなに配って。空いたお皿とグラス集めてまとめて。シーンてなったら先輩が話し始めて。私、合コン行くの初めてでしたけど、そういうまとめ役って必要なんですか?先輩の目的って何ですか、いい男を見つけることですよね?まとめ役をしに合コンに行ってる訳じゃないはずです。」

 加波子は言いたいことを勢いよく言う。一息入れて今度はゆっくり話し出す。

「自分に正直になったらどうですか?正直になりたくてもなれない時だってあるのに…もったいないです。たまには肩の力抜いて、パンパンになった空気、少し抜いたらどうですか?…って聞いてます?先輩!」

 加波子が友江を見ると、友江は涙ぐんでいた。驚く加波子。そして反省する。

「すみません、言い過ぎました。ごめんなさい。」

 友江は怒ってなどいなかった。

「あんたの言う通りかもしれない…。自分の気持ち、忘れてた…。そうよ、私はいい男を見つけたいの!」

 友江は加波子に近づき肩を組む。

「決めた。私生まれ変わったら男に生まれてあんたを嫁にする。」
「えーーー。」
「何よ、嫌なの??」
「いーえ。光栄です。」
「よし!昨日のお礼!今日は私のおごり!」

 二人は笑う。いつもの古都で、いつものように。

 加波子は友江がうらやましかった。なぜなら友江は自由だからだ。

 自由ではない場所から届く、いや、返ってくる手紙を待つ加波子。毎日届く。その度、一覧の紙を見てその場所に線を引く。残る場所が少しずつ減っていく。手紙が重なっていく。

 そんな夜が続いた。月と星を胸に。
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