愛してる 〜必ず戻る、必ず守る〜
11話
ふたりは退院する。ふたり揃って。
加波子は着替え、コートを着てリュックを背負い、振り返らずに病室を出る。ナースステーションに寄り、挨拶をする。
亮は先にロビーに来ていた。ふたりは目を合わせ、微笑み合う。加波子は亮の左側に座る。会計を待つ。
そこに婦長が現れる。加波子は立ち、お辞儀する。加波子が挨拶をしようとした、その時。
「退院おめでとう。待ってたわ。会計が終わったら、中庭へ来てちょうだい。」
「え?」
「それから平野さん。あなたはこちらへ。」
そう婦長が言い残し、亮をどこかに連れていってしまった。
「え…何…?」
加波子はそわそわしながら会計を待つ。待ち時間がやけに長く感じる。加波子が呼ばれる。
「お世話になりました。」
加波子は中庭へ急ぐ。初めて見る中庭。中庭というよりは、ただ建物の壁に囲まれた敷地だった。茶色い草木が何本かある。婦長と看護師が待っていた。加波子は婦長に声を掛ける。
「あの…。」
婦長は奥の年配の男性医師を指す。
「あの中央の方はここの医院長。牧師でもあるのよ。さぁ、行きなさい。彼も待ってるわ。」
医院長という牧師の前に亮は立ち、加波子を見ていた。
「あ…亮…。」
亮の隣には、外科医の永井もいた。
「はい!これ持って行って!」
突然、加波子は看護師にブーケを手渡された。その看護師はいつも加波子によくしてくれていた看護師だ。小さなブーケ。手のひらより少し大きい、色とりどりの花のブーケ。
「はい…。」
ブーケを持ち、加波子はゆっくり進む。亮のもとへと。緊張しながら前へ進む加波子。そして亮の左に立つ。亮は腕を出してくる。不思議に思う加波子。
「腕、組め。」
「あ…はい…。」
そしてふたりは牧師を見る。牧師は問う。
「平野亮さん。あなたは井川加波子さんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
亮は答える。
「はい。誓います。」
亮を横目で少し見ていた加波子。その亮は堂々としていてとてもかっこよかった。嬉しくなる加波子。そして加波子の番。
「井川加波子さん。」
牧師に同じことを問われる。迷わず答える。
「はい。誓います。」
加波子の目にはうっすら涙が。
「それでは誓いの口づけを。」
亮と加波子は向き合い、見つめ合う。亮は加波子の肩に手を添える。加波子は瞼を閉じる。ひとつの涙が頬をつたう。ふたりは誓いの口づけをする。愛を誓った。
「このふたりに大いなる祝福を!」
永井、看護師、拍手をし祝福をする。
「おめでとうございます。」
「おめでとう!お幸せに!」
加波子は感謝した。涙を流しながら。
「ありがとうございます…本当に、ありがとうございます…。」
何度も感謝し、何度も頭を下げる。中庭以外からも拍手が聞こえた。1階と2階のそれぞれの廊下。何人かの患者や看護師が窓を開けて見ていたのだ。手を振ってくる。
「おめでとうございまーす!」
「おめでとー!」
「お幸せにー!」
加波子はひとりひとりに頭を下げる。
ふたりは歩く。婦長の前。
「おめでとう。」
婦長は笑顔で祝福してくれた。
「婦長さん…、色々とご迷惑お掛けして、本当に、すみませんでした…。」
加波子は深く頭を下げる。
「ほんとよ!」
婦長は亮を見てこぼす。
「この人ったら、あなたのことになるとすぐむきになって、大変だったのよ?」
「本当に、ご迷惑おかけしました。」
亮も頭を下げる。婦長はふたりをなだめるように見る。
「これからは、お互いがお互いを同じくらい、想い合っていくのよ?あなたたちは家族、支え合って生きていってちょうだい。幸せになるのよ。わかったわね?」
亮と加波子、それぞれ答える。
「はい。必ず幸せになります。」
「ありがとうございました…。本当に、お世話になりました…。」
婦長は加波子の背中をそっと押す。
「さぁ、行きなさい。あなたたちの未来が待ってるわ。」
改めて礼を言うふたり。
「はい…。」
「お世話になりました。行こう、加波子。」
亮と加波子。ふたりは、祝福してくれた牧師、医師、看護師らに深く頭を下げ、病院を後にする。
帰り道。ふたりは手をつなぎ、ゆっくり歩いている。
「お前、まだ泣いてるのか?」
「だって…。」
加波子は大事にブーケを持っている。
「子供が子供を産めるのか?」
「子供じゃないってば!」
いつものように、からかう亮と怒る加波子。ふたりは新たな一歩を踏み出そうとしていた。
そしてふたりが進むように、季節も進んでいた。桜の木。つぼみが見えた。
「ねえ、亮?」
「んー?」
「春になったら今度こそ、お花見行かない?」
「そうだな…。行こう。」
胸がはずむ加波子。
「それで夏になったらまた海に行って…。秋になったら…。」
亮が笑う。
「何?」
「お前いつまで遊んでんだよ。出産の準備はいつするんだ。」
「あ…。」
「お前はやっぱり子供だな。」
「もー!」
お互いが見せる笑顔は、お互いを強くさせ、お互いを優しくさせた。
春は、もうすぐ。
加波子は着替え、コートを着てリュックを背負い、振り返らずに病室を出る。ナースステーションに寄り、挨拶をする。
亮は先にロビーに来ていた。ふたりは目を合わせ、微笑み合う。加波子は亮の左側に座る。会計を待つ。
そこに婦長が現れる。加波子は立ち、お辞儀する。加波子が挨拶をしようとした、その時。
「退院おめでとう。待ってたわ。会計が終わったら、中庭へ来てちょうだい。」
「え?」
「それから平野さん。あなたはこちらへ。」
そう婦長が言い残し、亮をどこかに連れていってしまった。
「え…何…?」
加波子はそわそわしながら会計を待つ。待ち時間がやけに長く感じる。加波子が呼ばれる。
「お世話になりました。」
加波子は中庭へ急ぐ。初めて見る中庭。中庭というよりは、ただ建物の壁に囲まれた敷地だった。茶色い草木が何本かある。婦長と看護師が待っていた。加波子は婦長に声を掛ける。
「あの…。」
婦長は奥の年配の男性医師を指す。
「あの中央の方はここの医院長。牧師でもあるのよ。さぁ、行きなさい。彼も待ってるわ。」
医院長という牧師の前に亮は立ち、加波子を見ていた。
「あ…亮…。」
亮の隣には、外科医の永井もいた。
「はい!これ持って行って!」
突然、加波子は看護師にブーケを手渡された。その看護師はいつも加波子によくしてくれていた看護師だ。小さなブーケ。手のひらより少し大きい、色とりどりの花のブーケ。
「はい…。」
ブーケを持ち、加波子はゆっくり進む。亮のもとへと。緊張しながら前へ進む加波子。そして亮の左に立つ。亮は腕を出してくる。不思議に思う加波子。
「腕、組め。」
「あ…はい…。」
そしてふたりは牧師を見る。牧師は問う。
「平野亮さん。あなたは井川加波子さんを妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
亮は答える。
「はい。誓います。」
亮を横目で少し見ていた加波子。その亮は堂々としていてとてもかっこよかった。嬉しくなる加波子。そして加波子の番。
「井川加波子さん。」
牧師に同じことを問われる。迷わず答える。
「はい。誓います。」
加波子の目にはうっすら涙が。
「それでは誓いの口づけを。」
亮と加波子は向き合い、見つめ合う。亮は加波子の肩に手を添える。加波子は瞼を閉じる。ひとつの涙が頬をつたう。ふたりは誓いの口づけをする。愛を誓った。
「このふたりに大いなる祝福を!」
永井、看護師、拍手をし祝福をする。
「おめでとうございます。」
「おめでとう!お幸せに!」
加波子は感謝した。涙を流しながら。
「ありがとうございます…本当に、ありがとうございます…。」
何度も感謝し、何度も頭を下げる。中庭以外からも拍手が聞こえた。1階と2階のそれぞれの廊下。何人かの患者や看護師が窓を開けて見ていたのだ。手を振ってくる。
「おめでとうございまーす!」
「おめでとー!」
「お幸せにー!」
加波子はひとりひとりに頭を下げる。
ふたりは歩く。婦長の前。
「おめでとう。」
婦長は笑顔で祝福してくれた。
「婦長さん…、色々とご迷惑お掛けして、本当に、すみませんでした…。」
加波子は深く頭を下げる。
「ほんとよ!」
婦長は亮を見てこぼす。
「この人ったら、あなたのことになるとすぐむきになって、大変だったのよ?」
「本当に、ご迷惑おかけしました。」
亮も頭を下げる。婦長はふたりをなだめるように見る。
「これからは、お互いがお互いを同じくらい、想い合っていくのよ?あなたたちは家族、支え合って生きていってちょうだい。幸せになるのよ。わかったわね?」
亮と加波子、それぞれ答える。
「はい。必ず幸せになります。」
「ありがとうございました…。本当に、お世話になりました…。」
婦長は加波子の背中をそっと押す。
「さぁ、行きなさい。あなたたちの未来が待ってるわ。」
改めて礼を言うふたり。
「はい…。」
「お世話になりました。行こう、加波子。」
亮と加波子。ふたりは、祝福してくれた牧師、医師、看護師らに深く頭を下げ、病院を後にする。
帰り道。ふたりは手をつなぎ、ゆっくり歩いている。
「お前、まだ泣いてるのか?」
「だって…。」
加波子は大事にブーケを持っている。
「子供が子供を産めるのか?」
「子供じゃないってば!」
いつものように、からかう亮と怒る加波子。ふたりは新たな一歩を踏み出そうとしていた。
そしてふたりが進むように、季節も進んでいた。桜の木。つぼみが見えた。
「ねえ、亮?」
「んー?」
「春になったら今度こそ、お花見行かない?」
「そうだな…。行こう。」
胸がはずむ加波子。
「それで夏になったらまた海に行って…。秋になったら…。」
亮が笑う。
「何?」
「お前いつまで遊んでんだよ。出産の準備はいつするんだ。」
「あ…。」
「お前はやっぱり子供だな。」
「もー!」
お互いが見せる笑顔は、お互いを強くさせ、お互いを優しくさせた。
春は、もうすぐ。