愛してる 〜必ず戻る、必ず守る〜

最終話

 加波子は目覚める。少し遅い朝。

 商店街は既に賑わっていた。窓から見えた空は青かった。

 隣には亮が寝ている。気持ちよさそうに。今までにない安心感。そばにいることがこれほど貴重なものだということを感じた加波子。加波子は亮の寝顔を愛おしく想いながらしばらく見ていた。

 亮が起きる。加波子と目が合う。加波子は小さな声。

「おはよう、亮。」
「おはよ…お前いつ起きたんだ…?」
「さっき起きた。」
「よく眠れたか?」
「うん。」
「ならいいけど…。」

 まだ寝ぼけている亮に、加波子はキスをする。

「おはようのキス。」

 亮はまだ寝ぼけている。するとインターホンが鳴る。

 ピンポーン

 起きたばかりのふたりには大きく響く音。

 ピンポーン

「フラワーショップ田中でーす。お届け物でーす。」
「お花屋さん…?誰からだろう…病院かなぁ…。亮はまだ寝てて。」

 加波子はそう言い、起き上がる、立って玄関に向かう。亮も起き上がる。亮は気づく。直感。

「…はーい…。」

 加波子は玄関。そして。

「加波子!開けるな!」
「え?」

 加波子は亮を見る。

 カチャッ

 亮の叫び声、振り向いた加波子、鍵を開ける音。全てが同時だった。

 亮は加波子へと急ぐ。

 ドアが開く。真っ赤なバラの花束。とても大きく、加波子の視界が真っ赤になる。そしてその花束の奥から、黒いキャップ帽を被った男が見えた。男は土足で部屋に入ってくる。慌てる加波子。

「あの!」

 男はゆっくり入ってくる。加波子は後ずさりをし、後ろの壁にもたれる。男は花束を放り投げる。男の顔が見えた。

 加波子は硬直した。あの男だ。慈悲のない目をし、加波子が包丁を向けたあの男だった。そして男は背後から銃を出した。加波子の目は凍りつく。未だかつてない恐怖に脅え、震える。

 亮は間に合った。加波子の前に、加波子に背を向けて立つ。

 その一瞬後。

 バンッ

 大きな鈍い音。銃声だ。賑わう商店街にも響く大きな音。

 亮は撃たれた。少し前かがみになりながらも亮は男を睨み、近づこうと一歩踏み出した。

 バンッ

 もう一発。亮は撃たれた。

「亮!!」

 2発みぞおちを撃たれた亮は前かがみになる。その体勢のまま亮も後ずさりをし、加波子に寄り掛かかった。両腕を少しだけ広げている。少しでも加波子を守りたかった。亮の体は震えていた。広げている両腕も。

「…りょ…お?」

 男を睨んでいた亮の目線が、体とともに落ちていく。亮は力が尽き、勢いよく床に落ちた。

 その瞬間。

 バンッ

 加波子も撃たれてしまった。亮を抱きしめる間もなく。亮と同じ箇所、同じみぞおちだった。

 加波子も床に落ちる。今までに経験したことのない、限界を超える身体の痛み。もう自分は動けないことを、加波子は悟った。

 一瞬の出来事だった。

「死にぞこないとカナコ。ヒマつぶしにもならなかったなー。まーいいや。じゃあね。」

 男は去っていく。ドアの閉まる音がした。

 亮は加波子の太ももの上に頭を乗せ、仰向けになる。

 加波子は手を亮の胸の上に置く。血が滲む胸の上に。その加波子の手の上に、亮も手を重ねる。

 虫の息のふたり。

 それでもふたりは見つめ合う。加波子の目には涙が浮かんでいる。

「…亮…?」
「…そういえば…言ってなかったな…。」
「…なぁに…?」
「…加波子…。」
「…ん…?」

 亮の目にも涙が浮かんでいた。

「…愛してる…。」

 そう告げた後、亮はゆっくり目を閉じ、頭は加波子に向けて垂れ、重なっていた手が床に落ちた。

 それを見届けた加波子は、力を振り絞り微笑む。最後の笑顔。

「…亮…愛してる…。」

 加波子も目を閉じ、頭は亮に向けて垂れ、最後の涙の一粒がこぼれる。こぼれた涙は亮の頬へやさしく落ちた。

 踏み潰されたバラの花束。散らばったバラの花びら。流れ出る血。全て同じ色だった。

 そこには、永遠の幸せ、何からも縛られない自由、そして純愛。

 それがふたりの最期、ふたりが結ばれた瞬間だった。




ED
THE YELLOW MONKEY / バラ色の日々
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