【女の事件】十三日の金曜日
第35話
10月22日のことであった。

この日は日曜日であったが、ひろかずが勤務している工場は10月中に仕事を全部仕上げるために、休みではなかった。

ひろかずは、3軒となりの家の息子さんがカノジョとイチャイチャしていることに腹を立てて、息子さんにイカクすることを繰り返していたので、心が大きく壊れていた。

『35歳までにコンカツせえへんかったから婚期を逃したと言いたいのだろ!!』『オレが恋愛できんからあわれねと言うたのだろ!!』など…

ひろかずは、3軒となりの家の息子さんに八つ当たりをして『ワーーーーーーーーッ!!』と叫んで走り去って行くことが多くなったので、キンリンの住民のみなさまとの関係が気まずくなっていた。

その上、ひろかずは自分の仕事にほこりが持てなくなったとも言うていた。

ひろかずがいる職場でも、従業員さんの結婚が決まった話やカノジョにプロポーズをした話などがあったので、ひろかずは『オレは中卒で契約社員の身だから…オレがガマンすればいいのだろ!!』と怒るようになっていた。

『そんなことはないよ。』『ひとりはいるよ。』『そのうち順番は回ってくるよ。』『ぼくたちもひろかずさんにカノジョができるように応援しているよ。』『まじめに働いていたらこんぴらさんがお嫁さんをえらんでくれるからあきらめないで…』

従業員さんたちは、ひろかずにやさしい声で呼びかけてはいたけど、ひろかずの耳にやさしい声は届いていなかった。

10月23日頃から、ひろかずは遅刻早退と休みを繰り返すようになったのと同時に生きる気力を喪って(うしなって)いた。

それと並行して、恐ろしい悲劇がマンションの近辺で多発していた。

「ふざけとんかオドレは!!どぎついメイクをして昼間の飲食店でバイトしているのか!!ワーーーーーーーーッ!!ワーーーーーーーーッ!!」

事件は、10月23日の朝7時過ぎにことでん片原町駅の東側の商店街にあるカフェベーカリーで発生した。

どぎついメイクをして日中のバイトをしている女性従業員さんが気に入らないことを理由に店に来ていた男の客(30歳無職)がどぎついメイクをしている女性従業員さんを突き飛ばして倒した後、持っていたサバイバルナイフで左目を切り裂いて大ケガを負わせたあげくに、店内で刃物を振り回して暴れた事件が発生した。

事件を起こした男は、ケーサツに逮捕された。

店にいた数人の客が負傷した。

左目を切り裂かれて大ケガを負った上に心肺停止におちいってしまったどぎついメイクの女性従業員さんは、ゆかこの一家が暮らしている部屋の下の階に住んでいるご夫婦の奥さまの妹さん(22歳・フリーアルバイター)であった。

どぎついメイクをしている女性従業員さんは、競輪場の近くにある救急病院に救急搬送された後に集中治療室にカクリされた。

事件発生から数時間後のことであった。

となりの部屋で暮らしている奥さまがゆかこの母親のもとへやって来てこんな話をしていた。

「上尾さん…下の階で暮らしているご夫婦の奥さまのお妹さん…助かる見込みがなくなったみたいよ。」
「えっ?下の階で暮らしている奥さまのお妹さんって、どぎついメイクをしてパン屋でバイトしはってたコでしょ。」
「そうよ。」
「何で助かる見込みがなくなったの?」
「出血がひどいので、手のほどこしようがなくなったみたいよ…容疑者の男は警察署で取り調べ中よ…」

となりの奥さまは、どぎついメイクをしている女性従業員さんはもうすぐ手遅れになると言うたあと、言いたい放題言いまくっていた。

「下の階で暮らしているご夫婦がふざけているから奥さまの妹さんの態度が悪いのよねぇ…」
「奥さま、下の階で暮らしているご夫婦がふざけているからってどういうわけなのでしょうか?」
「ふざけているからふざけているのよ…とくに奥さまのご実家の父親がふざけているから奥さまの妹さんがどぎついメイクをして日中のバイトをしているのよねぇ…」
「それって、どういうわけなのでしょうか?」
「下の階で暮らしている奥さまの妹さんは、よそのかまのメシを食べていないからダメになってしまったのよ…大学卒業までは大学を楽しんでこい…シューカツは大学を卒業してからでも遅くはないからって甘やかすだけ甘やかしていたのよ…片原町のカフェベーカリーはね…奥さまのご実家の親戚が経営してはる店なのよ…」
「そうだったの…」
「下の階で暮らしている奥さまの父親がたわけているから妹さんがドタワケになったのよ…中学高校の時に職場体験してへんかったんじゃないのかしらねえ(ブツブツ)」

となりの奥さまは、どぎついメイクをしている女性従業員さんのことをボロクソに言いまくっていた。

ゆかこの母親も、となりの奥さまの話にビンジョウしてボロクソに嗤い(わらい)まくっていた。

しかし、その日の深夜にどぎついメイクをしていた女性従業員さんが入院している救急病院で、恐ろしい悲劇が発生した。

日付が変わって、10月24日の深夜0時22分頃のことであった。

どぎついメイクをしている女性従業員さんがカクリされている集中治療室に、恐ろしい鉄音が響いていた。

どぎついメイクをしている女性従業員さんがギロチンにかけられていた。

ギロチンは、十川西町の鉄工所の倉庫から盗まれた物であった。

この時、病院の救急病棟には宿直の医師がクタクタになって宿直室で寝ていたこととナースセンターにいた看護婦さんたちがスマホのラインやオンラインゲームに夢中になっていたので、ナースコールが鳴っていても気がついていなかった。

そんな時であった。

(ゴォゴォゴォゴォゴォ…シューーーーーーーーーーーー!!ストーーーーーン!!ストーーーーーン!!)

集中治療室に、恐ろしいサイダン音が響いていた。

そして、朝6時44分頃のことであった。

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

ナースセンターにいた看護婦さんが集中治療室の前を通っていた時に、室内にギロチンが置かれていたのを発見したので、強烈な叫び声をあげていた。

その後、香川県警のパトカー20台が病院に到着して、現場検証を開始した。

事件が発生した時、宿直の医師たちやナースセンターにいた看護婦さんたちがギロチン殺人事件のことに気がついていなかったので、ケーサツからのきびしい取り調べを受けるハメになった。

香川県警の捜査1課の刑事たちは、容疑者に結びつく手がかりが乏しいので、苦戦をしいられていた。

ギロチン殺人事件発生から7時間後のことであった。

ゆかこの一家が暮らしているマンションで、銃撃事件が発生した。

銃弾は、亡くなった女性従業員さんが暮らしている部屋のドアに当たった。

そしてドアに天誅(てんちゅう)と書かれた紙が貼られていた。

ゆかこの一家は、ギロチン殺人事件が原因で円座町のマンションで暮らして行くことができなくなったので夜逃げをしてしまった。
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