愛プチ
翌朝の日曜日。
私はベッドの上で悶えていた。

昨日のキスから後の事はあまり覚えていない。
あまりの出来事にショックと衝撃が大きすぎて放心状態だったのだけは確かである。

不可抗力とはいえ、進藤さんと付き合った数時間後に他の男とキスするって・・。

はっ!!
そういえば進藤さん!!

昨日の夜悶々と、帰り道にお礼のメールを送ったけど、返信はきてるだろうか。

謝罪の文章を打つべきか迷ったけど、結局シンプルにお礼だけ送信した。

返信がきているかどうかわからないケータイの画面をみるのがこわくて数回深呼吸を繰り返す。
おそるおそるケータイの画面をみると、一件のメッセージが来ており、そのことにほっと胸をなでおろした。

いや、まだ安心するには早い。
内容をみてからでないと。

”昨日はありがとう!
いい返事がきけて嬉しかったよ。
これからよろしくね。”

「はっ・・よかった・・・はぁ・・。」
進藤さんからのメッセージが表示されているケータイを思いきり抱き締めた。

これからよろしくねの部分が光って見える。
私も進む覚悟を決めなければ。
いや、進む覚悟はあるんだけど。
進む気満々なんだけど。

全く行動に移せていないところが私のダメなところ。
そして行動に起こしたとしても中途半端に終わってしまうのが私・・。

逃げ場をなくさなければこの逃げ癖は一生治らない。
自分のトラウマを克服するためにここにしばらく住むことを決めたくせに全く一人暮らしの時と変わってないし・・。

「新たな目標と試練を自分に課すしかない。」
決意を新たに、洗面所に向かう。

朝の洗顔とスキンケアを終え、いつもならすぐにアイプチをするところだが、アイプチ以外の化粧だけを施し、リビングに行った。

リビングには誰も居ない。
普段ならリビングに長期滞在はしないが、今日は違う。
新たな試練を自分に課す為、私は奴と会わなければならない。

リビングのソファの後ろで三角座りをして身をひそめる。

手に握るケータイの時刻をみてそわそわする。
もうすぐ朝ご飯を食べにくる頃なはず・・。

数分後誰かが何か話しながら部屋に向かってきた。
声とどこかぶっきらぼうな喋り方的に美月君だな。

ていうか友達と電話をしているみたいだけど、これ盗み聞きなんじゃ・・。
なんか普通にリビングにいるんじゃなくて隠れているせいで謎の罪悪感が・・。
でも、聞かれたくない話ならわざわざリビングきて電話なんかしないだろうし、聞かれてもいい内容なんだろう。
と思いたい・・・。

「さとしもやってくれよファイミュー。ゲーム機は高いけどその分おもしろいし、なあ。
周りで誰もやってる奴いないんだって・・。
またいくらでも合コンついてってやるからさ、なあー・・。
なんでって・・そりゃ激レアアイテムゲットするには絶対一人じゃ無理なんだって・・。それに友達紹介したらポイントももらえるし・・。」

普段のというか、私の知っている美月君とは思えない程やけに饒舌だな・・。
ファイミューってファイティングミュージアムってゲームの事だよね多分・・結構マイナーでコアなゲームファンしかやってないイメージだけど・・。
よっぽどゲームが好きらしい。

「あーくそ!きりやがった!」

地団駄を踏むどんどんという音が床に地味に響く。
どうやらめんどくさくなって電話をきられたようだ。

ぶつくさと文句を言いながらこちらに近づいてくる足音に心を決め、ソファーまで美月君が近づいてきたところで思いきり立ち上がった。

「あのっ「うわああああああああ!!!!ってえええええええ!!!!!」

私と目が会った瞬間、よほどびっくりしたのか叫び声をあげながらすぐそばにあった棚の角で小指を打ち、彼がしゃがみこみ悶える。

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