愛プチ
イケメンからの顎クイなんて女子ならば誰もが憧れるシチュエーションかもしれないが私にとっては、そっちよりも一重であることにどうしても意識が集中してしまう。

目をみられれば見られるほど、過去のトラウマが腹の奥底から今か今かと顔をだそうとしてくる。
だめだ。
顔が青ざめていく。
でも、顔を逸らしちゃいけない。

「と、とりあえず20秒お願いします。」
ポケットからキッチンタイマーを取り出し20秒セットする。

「さっそく目閉じてんじゃねえよ。」

「はい、すんません。」

思わずぎゅっと閉じてしまった目を再び開く。
一重をこんな間近でじっとみられるなんて・・耐えられ・・いや耐えろ私・・。
ほんの20秒ごとき・・自信をもって素顔を好きな人にみせれる自分になる第一歩を踏み出すんだ・・・トラウマに負けるな・・・。
でないと一生進藤さんとベッドインできない・・。

ていうか20秒って結構長い・・・時がとまったような感覚。
そしてじっと私の顔を見続ける美月君に対して泳ぎまくる私の目。

傍目からみたらかなりシュールだろうなこれ。
朝から人になんてことさせてるんだ私は・・・。

ピピピピピピ・・・。

「はい、ありがとうございましたぁぁああああ!!」
タイマーと共にすくっと立ち上がり洗面所に走り鏡の前で発作を起こしそうになっている呼吸を落ち着ける。

20秒でこんな状態とは・・・先が思いやられる。
2回すでに一重の状態ぱっと見だけど美月君にはみられた事あるからまだマシだと思ってたけど、まじまじ間近でずっと見られるとなるとかなりくるものがある。

しかし頼んでしまった手前もう逃げることは許されない。
これは過去のトラウマとの闘いでもあり、自分との闘いでもある。

「とりあえずアイプチしよう・・。」
やっぱりこれがないと人前に堂々とでられない・・。

二重になった鏡に映る自分をみてとりあえずほっと息をついた。

「おい、こっちはそっちの頼みきいたんだから、ファイミュー付き合えよ。
部屋で待ってるからあとで来て。」

背後から突如聞こえた美月君の声に肩がびくっと跳ね上がる。

「・・わかってます。」
恐る恐る小さく返事をしてそそくさと洗面所を出た。
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