愛プチ
部屋に入ると、落ち着いたムードの漂う部屋のど真ん中に大きなベッドがドドンと私達を待ち構えていた。

どうしよう緊張しすぎて口からなんかでそう・・。

とりあえずソファに並んで座る。

触れるか触れないかの距離が余計に緊張してしまう。

だめだだめだ落ち着け私。
平常心平常心平常心。

「亜由美ちゃん・・。」
心の中で呪文を唱えていると進藤さんが優しく私の名前を呼んだ。
横をみると、進藤さんの顔がすぐそこまで迫っていた。

重なった唇が徐々に深くなる。

深くなるにつれて、じわじわと蘇るトラウマ。

ゆっくりと私を抱きしめる手は、大好きな人の手のはずなのに。
ドクンドクンと嫌な方向に心臓が鳴りだす。

だめだ思い出しちゃだめだ。
あの人とは違う。

今はアイプチだってまだしてるんだから。

「シャワー先浴びる?」

こくりと頷くので精一杯だった。

進藤さんの事だけ考えればいい。
トラウマなんて関係ない。
アイプチなしの顔だって美月君にみてもらってほぼ克服したようなものなんだから。

でも、とりあえず今日は進藤さんは明日仕事ってさっき言ってたし、泊まっていかないだろうから化粧は落とさないでおこう。

シャワーを軽くあびて、少しだけ化粧を直して部屋に戻ると、進藤さんもすぐにシャワーを浴びに行った。

この待ってる時間が何気に一番緊張するかもしれないな。

美月君のときは私がシャワーでた瞬間にテンパって帰っちゃったし。
もうあれから結構たったのか・・なんだか懐かしい。
あの時はまさか一緒に住んですっぴん毎日みてもらってゲーム仲間になるなんて思ってもみなかったけど。
人生何があるか分かんないもんだな。

他の事を考えて気を紛らわしていると、シャワーからでてきた進藤さんが私をベッドに連れて行った。

そして再び重なる唇。

大丈夫。
今回は大丈夫。
もう気になんかしてない。
私は進藤さんが好き。
ただそれだけなんだから。

再び腹の奥底から顔をだそうとしてくるトラウマを必死に沈める。
大丈夫。
何回そう唱えても、苦しくなるのはなんでなんだろう。

「かわいい。」
そう言って私をベッドに優しく押し倒した進藤さんをみて、体が強張ってしまった。

反射とは怖いものだな。
深いトラウマはどれだけ払拭しようとしても感覚ですぐに思いだしてしまう。

でてきちゃだめ。
でてきちゃ。
今はやめてお願い。

”やっぱブスだな”

呪いの言葉が私の思考を一瞬で壊していく。

気付けば、私の体は小さくブルブルと震えていた。
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