愛プチ
しかし嫌な予感というのは当たるものである。

あのあと、二人で合コンを抜け、何故か今私達はファミレスにいる。

そして目の前には絶賛目に見えて不機嫌な女の子。

何これどういう状況。
そして何故ファミレス、、。

肝心の条件はまだ聞いていないが鬼の形相をした彼女を見る限りなんとなくの察しはつく。

しかし当の本人、美月君は合コンを抜けてきた途端うんともすんとも喋らなくなった。

喋ったのは最初のこんばんはだけで、あとは誰もしゃべらない。

重い重い沈黙がファミレスの隅っこで流れていた。


何この地獄の状況。

何なの?

今日は私の命日なの?

なんでこんなに大ピンチの嵐が次から次へと。。

「ちょっと、そろそろちゃんと説明してよ。
この女なんなの。」

しびれを切らしたのか、不機嫌な女の子が口を開く。

私のことは眼中にすらないのか、鋭くとがった彼女の眼はじっと美月君だけを見据えていた。

めちゃくちゃ怒ってるしめちゃくちゃ修羅場じゃん。。
ていうか私も聞きたいよ・・誰なんですかあなたこそ・・。


「なにって彼女。
お前が連れてこいっていうから連れてきたんだけど?これで満足した?」

思ってもみない予想外の言葉が美月君の口からでてきたせいで思わず隣に座る彼を二度見する。

いやいやいや、、えええええ?!

何言って、、ってちょっと、女の子今度はめちゃくちゃこっちにらんでるじゃん。
めちゃくちゃ私のこと睨んでる睨んでる怖い!!

「ちょ、違うんです誤解で、、」

否定しかけたとき、机の上に置いていたケータイの通知がピコンと光る。

待ち受けに突如表示されれたのは知らない人からのメッセージ。


里中って、誰だこれ、、。


"騒いだらこないだのこと言いふらす"


、、いやこれ、この内容。
、、絶対隣のあなたじゃないですか。。

いやまずいつのまに連絡先入手したの、ねえ。

開いた口がふさがらずパクパクしながら彼の方をみるとお冷をすすっていた。

しかもなんで当の本人の君はそんなに冷静なわけ!!


「じゃあ、まなの事は遊びだったってこと?
こっちは別れたつもりないんだけど?」

悔しそうに下唇を噛んでいるこの子はまなちゃんと言うらしい。

表情を見る限り、かなり美月君の事が好きなんだろうな。

そんな顔されたら、
だめだよほんとのこと言って説明しないとこの子が可哀そうだよ!
という気持ちと
いいじゃんもうほっとこうよ、これでもうこの前の事はチャラになるんだし。
という邪悪な気持ちで揺れてしまう。


「まず俺お前と付き合ってたつもりないし。
今日はあんまりしつこく付きまとってくるからやめてくれって言いに来ただけ。」

容赦ない言葉選びに私まで少しビビッてしまう。


容赦なく振られてしまった彼女の眼にはうるうると涙が浮かんでいた。

そしてそんな彼女には目もくれず彼の視線はケータイから離れない。

ちょっとこれは、ひど過ぎないか、、。


「あの、本当は私、、」

やっぱり本当の事言おう、でなきゃこの子がいたたまれない。

そう思って口を開いた瞬間。

彼女が手に持っていたグラスのお冷を私に向かってぶっかけた。


いや、えええええ。
なんで私、、、。
ていうか冷たい、、。

「アンタの話なんか誰もききたくないから。
もういい、帰る。」

私をぎっと睨んで、彼女はすぐに席を立ち颯爽とお店をでていく。

私は今、人生で初めて修羅場というものを経験し、初めて水をぶっかけられた。

ただただ唖然としてしまって前髪からぽたぽたとしたたり落ちる水滴をただ見ることしかできない。


「あいつ一回寝ただけなのすごいしつこくて困ってたんだよね。
用は済んだから。もう帰っていいよ。」

この子には感情がないんだろうか。

私が水をかけられた時でさえピクリともせずずっとケータイを触っていた。


確かにさっきの彼女にもいきすぎた行動はあったかもしれない。

でもろくな説明もせずにこんな態度って。。

しかも真横で私こんな濡れてるんだよ?

めちゃくちゃ寒いんだぞこっちは!!


「ねえ、いつまでいんの?
もうお前とも会うつもりないしこの前のことはなかったことにするから早く消えろよ。
横にいると集中できねえ、うっとおしい。」

冷静に淡々とそう言い放った彼に対して、
気が付けば

手が滑っていた。

立ち上がり、震える私の手に握られているのは空になったお冷のグラス。

そう、私は今、思わず彼に水をぶっかけてしまった。

これは予想外だったのかやっと彼がケータイから目を離し、豆鉄砲をくらったような顔でこちらをみる。


「私の名前、お前じゃないので。

橋本亜由美ですから。」

それだけ言い残し、びしょびしょのまま逃げるように走ってお店をでた。
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