キミは当て馬、わたしはモブ。
「俺のことです!」
嫌な予感が的中する前に、帝塚くんが高らかに宣言した。
お兄ちゃんも負けじと垂直に手を挙げる。その顔には世界中のウザさを集めに集めたような、煽りの具現化が存在していた。
しかし、帝塚くんは煽り耐性大という特性がある。
つまりその組み合わせが行き着く先は……。
「残念、お兄ちゃんのことでーす!」
「いいえ、俺のことです!」
「お兄ちゃん!」
「俺です!」
「兄!」
「俺!」
低レベルの言い争いである。
兄俺兄俺兄俺……うるさいんだけど! と耳を塞ごうかと思ったとき、二人が同時にこっちを向いた。
あっ……次の標的、わたしですか?
「佐久良はどっちが大好きですか!」
「和花はどっちが大好きなんだよ!」
意識が遠のきそうだった。
片や恋愛、片や家族愛。
そもそものベクトルが違うし、比較するものでもない。
どっちも大好きなのには変わらない。だけど、その答えでは二人は納得しないだろう。
だから仕方なく、わたしは答えを出した。
「今日は、帝塚くんとの仲を認めてもらうために集まったんだから……帝塚くんの方が、大事だよ」
やっぱり言葉にするのは恥ずかしくてボソボソと言ったけど、十分聞こえる音量だ。
わたしの言葉はしっかりとお兄ちゃんに届き……。
お兄ちゃんは……。
男泣きをしていた……。