キミは当て馬、わたしはモブ。



「俺のことです!」



 嫌な予感が的中する前に、帝塚くんが高らかに宣言した。


 お兄ちゃんも負けじと垂直に手を挙げる。その顔には世界中のウザさを集めに集めたような、煽りの具現化が存在していた。


 しかし、帝塚くんは煽り耐性大という特性がある。


 つまりその組み合わせが行き着く先は……。



「残念、お兄ちゃんのことでーす!」


「いいえ、俺のことです!」


「お兄ちゃん!」


「俺です!」


「兄!」


「俺!」



 低レベルの言い争いである。


 兄俺兄俺兄俺……うるさいんだけど! と耳を塞ごうかと思ったとき、二人が同時にこっちを向いた。


 あっ……次の標的、わたしですか?



「佐久良はどっちが大好きですか!」
「和花はどっちが大好きなんだよ!」



 意識が遠のきそうだった。


 片や恋愛、片や家族愛。


 そもそものベクトルが違うし、比較するものでもない。


 どっちも大好きなのには変わらない。だけど、その答えでは二人は納得しないだろう。


 だから仕方なく、わたしは答えを出した。



「今日は、帝塚くんとの仲を認めてもらうために集まったんだから……帝塚くんの方が、大事だよ」



 やっぱり言葉にするのは恥ずかしくてボソボソと言ったけど、十分聞こえる音量だ。


 わたしの言葉はしっかりとお兄ちゃんに届き……。


 お兄ちゃんは……。


 男泣きをしていた……。

< 152 / 219 >

この作品をシェア

pagetop