キミは当て馬、わたしはモブ。


 心臓がドコドコとうるさい中、勇気を出して玄関のドアを開ける。


 そこには帝塚くん……が花束を抱えて立っていた。



「あ、佐久良。お邪魔します」


「う、うん……それ何?」


「これは佐久良に。どうぞ」



 ふわりと笑って差し出してくる帝塚くん。……かっこいい。普通にときめいてしまった。


 何か言い返す気も消え失せて、素直に花束を受け取る。



「……ありがとう」



 わたしのために用意したものを好きな人からもらえるのって、こんなに嬉しいんだ。



「それ、俺がラッピングしたんです。だから普通に買うより、枯れにくいと思いますよ」


「えっ、どういう原理?」


「気持ちを込めたので。佐久良に長く綺麗な姿を見せたいはずですから」


「……ふぅん」



 本当は思いたくないのに、そんなわけないとか、言ってることがくさすぎるとか、素直じゃない言葉しか思い付かない。


 だからぶっきらぼうな返事しかできなくて、そんな自分がちょっと嫌。


 嫌な自分をグッと堪えて、もう一度「ありがとう」と小さく呟いた。


 そしたら、またあの綺麗な笑顔を見せてくれるから。


 わたしはどんどん好きになってしまうばかりで、悔しい。

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