キミは当て馬、わたしはモブ。



『おはよう。眠そうだね?』



 当たり障りのないセリフ。


 それだけなのに、わたしの心は揺れ動いていた。


 その姿、その声。何度も聞いて、何度も胸が苦しくなった。


 ヒーローと比べたら平凡な顔、差分の少ない表情。


 出番だってあんまりない。


 だけど――。



「この人なんですね、佐久良の好きな人……」


「好きだった(・・・)人ね!」



 帝塚くんの優しい声に被せる。


 間違いない、みのるくんがそこにいた。


 胸は揺さぶられた。好きだなって思った。


 でもそれと同時に、好きだった(・・・)なとも思った。


 帝塚くんの顔をじっと見る。


 ……好きだなって思う。


 それだけで、わたしの心は救われていた。



「……そうなんですね」



 嬉しそうに柔らかく笑う帝塚くんに、胸がキュンと高鳴る。


 もうわたし――帝塚くんしか見えてないよ。


 我慢できなくて、ゆっくりと顔を近付ける。


 キミからしてくれないからだよ。


 わたしがこんなに勇気を出すなんて、一年に一度あるかどうかなんだから。


 くっつく寸前まで来たとき、人差し指で止められた。



「ご褒美は、最後のお楽しみにしましょう」



 どうやらとことん焦らすのが好きらしい。


 余裕ぶったその表情、ムカつく!

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