キミは当て馬、わたしはモブ。


 触れるだけのキス。初めてなんだから、これくらいでちょうどいい。


 ……のに、長い! こちとら初心者なんだから、もっと優しくしろ!



「ん……っ、ちょっ……」



 帝塚くんの胸を押しても、離れるどころかどんどん距離は縮まっていく。


 しまいには後ろに床が迫ってきて、わたしの方が押されていた。


 薄目で帝塚くんのことを見たら、明らかにさっきまでと様子が違う。


 鋭い眼光が加えてギラギラしてるっていうか、なんかちょっと怖い。


 欲求不満なの……そっちじゃん!



「は……眼鏡が、邪魔ですね……」


「あのっ、もういいんだけどっ! 不満解消されましたっ!」


「俺はまだです」



 もぉーーーっ!


 確かに、誘ったのはわたしなんだけどさ!


 眼鏡を外してもう一度近付いてくる暴走男。


 わたしはこのまま受け入れるしかないのか。


 ……受け入れるしか、ないんだろうな。


 仕方なく。欲求不満な帝塚くんのために、ご褒美を追加してあげる。



「佐久良……好き、です」



 帝塚くんの低くて甘い声が胸にじんわり染みこんで、ビリビリとしびれを生み出す。


 初めてのキスは、ゲームで見てきたよりも苦しくて、あとしつこかった。


 それと、別に味はしなかった。

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