キミは当て馬、わたしはモブ。


 初めて推しカプの会話を聞く気が薄れた。


 二人には、二人だけの空間の中でとりとめもない会話をしててほしいのに。



「気になるから、あたし聞いてくるわっ」


「は!? あ、アカネ!?」



 その言葉と共に、後ろから肩にトントンと軽く叩かれた感覚。


 嫌な予感を振り切って、後ろを向いた。


 アカネちゃんが、にっこりと笑ってわたしを見ている。


 アカネちゃんの目に、わたしの姿が映っている。


 こんな。こんなことがあって、いいものだろうか。



「ねぇ、佐久良さんって」



 アカネちゃんは顔を寄せて小声で耳打ちしてくる。



「帝塚くんと付き合ってるの?」



 その声に、わたしは全身の血の気が引いていくの感じて――



「ぜ、絶対に、それだけはない!」



 全力で首を横に振った。


 一番言われたくなかった言葉。それをよりによって、彼女に言われてしまうなんて。


 最悪だ。今日はとことん運がない。


 アカネちゃんの後ろで申し訳なさそうにわたしを見ていた中村くんと目が合った。


 あ……違うの。わたしは、あなたにそんな顔をさせたいわけじゃない。


 笑顔のアカネちゃん、気まずそうな中村くん、苦しむわたしの中へ、ひとつの大きな影が忍び寄る。



「楽しそうですね。何の話をしているんですか? 俺も混ぜてください」



 わたしの友達を押し退けて現れた男。


 ……なんで帰ってくるの、帝塚秀司。


 おっ……おまえはお呼びじゃないんじゃーっ!

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