キミは当て馬、わたしはモブ。
毛布を押さえつける力がなくなったところを見計らって外に出た。
ぷはっと息を吐いてから、肺いっぱいに新鮮な空気を味わう。
優斗はあたしに背を向けてベッドの縁に腰掛けていて、表情を読み取ることはできない。
その背中から、深いため息が聞こえてくる。聞き取れないけど、何かをブツブツ唱えてもいる。
あたしはそれをよく聞こうとして耳を立てた。
「なんで今更……僕にしても……ない……」
断片的には聞こえるんだけど、文脈は理解できない。
よくわからない文字列を聞き流していると、突然――はっきりと耳に残る言葉が投下された。
「――……ほんっと、ドキドキして、損する……」
「えっ!?!? 優斗、あたしにドキドキしてくれたの!?!?!?」
ガバッと立ち上がると、肩から毛布が舞い落ちる。
毛布がベッドの上に着地するまでと、優斗が顔を真っ赤にするまで。
約二秒間。時間は、同じだった。
「しっ、してない! ふざけたこと言うな!」
「今言ったじゃん! あたしバッチリ聞いたよ!?」
「空耳だ!」
「ならそれでもいい!」
たとえ、あたしが都合良く改変した幻聴でも、
「それでもいいよ! 嬉しかったから!」
ちょっとでも異性枠に入れたんじゃないかっていう自信に繋がるから。