キミは当て馬、わたしはモブ。


 ほんとわたしって運が良い。


 推しカプと同じ次元に存在できて、推しカプと同じ空気を吸えるんだから。



「あ、ねぇちょっと、和花~」



 友達に呼ばれて、振り向く。手招きをしてくるので席を立った。


 すると、席の隣を通りすぎようとしたクラスメートと肩が軽くぶつかってしまう。



「あ、えっと……ごめん……」



 その言葉を捻り出すのに、少し時間がかかった。


 顔を上げると、無表情でじぃっと見つめられていたからだ。眼鏡の奥の切れ長な目が、わたしの動きを止めさせる。


 周囲を見ても彼の視線はわたしから離れなかった。つまり、完全に見ているのはわたしだ。


 えっ、なになに。怖すぎる。



「……いえ。こちらこそ」



 言葉を交わしたら、視線が動いてスタスタと歩いていった。


 帝塚(てづか)秀司(しゅうじ)くん。すっごくイケメンなんだけど、すっごく近寄りがたいオーラの男子。


 イケメンだけどいつも無表情で怖いし、いつも敬語だから冷たい印象を覚える。


 冷徹で眼鏡で敬語の男子って……あんまり萌えないんだよね。もちろん好きな人もたくさんいるんだろうけど。


 わたしはもっと普通に、話しかけやすい人の方が……。



「和花? どうしたのー?」



 友達の声で我に返る。急いで輪の中へ駆けた。

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