キミは当て馬、わたしはモブ。


 どうしよう。


 なんか、泣きそう。


 わたしが推しカプを好きになればなるほど、現実がそれを否定してくる。


 わたしが好きなものって、間違ってるのかなぁ……?



「あ……佐久良さん、隠れて」



 中村くんに肩を掴まれて、強引に物陰へと移動させられる。


 その勢いで、溜まっていた涙が頬を伝っていった。



「アカネのやつ、急に出てくるなよ……えっ。さ、佐久良さん? あ、え……大丈夫?」



 わたしの涙を見た中村くんは困惑しながら、服の袖で涙をぬぐってくれた。


 優しいなぁ……………………いや、めちゃめちゃ恥ずかしくない?



「ごっ、ごめんっ!」



 何泣いてんのわたし!


 中村くんから距離を取って、思いっきり頭を下げた。


 頭の中が混乱する。


 なんでわたし急に、こんなこと……。自分の思い通りにならないからって普通泣く!? 受け入れてたはずなのに、なんで今さら。


 わたしを心配そうに見つめる中村くんは、アカネちゃんに対する態度と全然違う。


 そんなのあたりまえだ。だって、アカネちゃんはこんなことでは泣かない。


 混乱したまま、まだ家庭科室の中にいる帝塚くんめがけて、駆け出す。


 どうしよう、帝塚くん。どうしよう、わたし……!



「帝塚くん!」


「佐久良……」



 帝塚くんの腕の中。バラの花束から、石鹸の香りが広がってくる。

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