キミは当て馬、わたしはモブ。



「フラれてしまいました……」



 その優しい香りとは裏腹に、帝塚くんの表情はどんよりと曇っていた。


 ふ、フラれた……帝塚くんが?


 それを聞いて、わたしはほっと……してない。


 それどころか、謎の焦燥感はだんだんと増していく。



「このバラの花束を受け取ってほしいとお願いしたら、そんなに受け取れないと……。一本だけもらってくれたのは、アカネさんの優しさだったのでしょうか」


「いや、それフラれてないから」



 わたしに続いて家庭科室に入ってきた中村くんが、苦笑をしながらバラの花束に目を向ける。



「それ、ソープフラワー?」


「あ、はい、そうです」


「そんなにたくさん、安くなかったよな。お金払うよ」


「俺が勝手に買っただけですから、いいですよ」


「覗き見したお詫びってことで」


「見られても特に嫌悪はしませんから」


「メンタル強いね……」



 ちょっと待って。二人とも、大事なところスルーしないでよ。



「結局、帝塚くんはフラれてないの?」


「あっ、そうでした。そうなんですか?」



 帝塚くんと二人で中村くんに問いかける。


 わたしの焦りはやがてドキドキと鳴り響く鼓動に変わっていた。



「うん。アカネは、モテたいくせに……鈍感なんだ」


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