キミは当て馬、わたしはモブ。
わたしの前でピタッと止まり、そのまま見下ろしてくる。
目を合わせることができない。わたしの心臓はバクバクと鳴り響き、今から始まることへの恐怖に支配されていた。
この状況も怖いんだけど、普通に帝塚くんの顔が怖いんだよ……。
「――佐久良。……さん」
あっこいつ、裏ではわたしのこと呼び捨てにしてるな。別にいいけど。
「…………なんでしょう?」
わたしは極力目線を下に向けながら返事をする。
まともに会話したこともない人から話しかけられたときの対処方ってなに?
どう考えたって、帝塚くんからわたしのことを気にかけるような様子は今までになかった。
なら、わたしである理由って……。
「キミは……」
わたしは……?
「好きな人は、いるんですか?」
はぁ……?
質問の意図がわからず顔を上げると、帝塚くんの真剣な視線に気圧されてしまいそうになった。
それでも負けるわけにはいかない。若干身を引きながら言葉を紡ぐ。
「ど、どういう意味……?」
「意味もなにも。言葉通りの質問ですが」
質問の意味を聞いてるんじゃなくて、その質問をしようと思った意味を聞いてるんだけど。
頭の良い帝塚くんが汲み取れないわけがない。つまりこれは、わざととぼけてるんだ。