キミは当て馬、わたしはモブ。
どうしてこんなに陰鬱な空気なのかがわからない。
でもたぶん、気まずい空気ってやつなんだと思う。
アカネちゃんはわたしと腕を絡めたまま、中村くんのことを警戒してるし。
中村くんは、わたしから近すぎず遠すぎずの距離でアカネちゃんの様子を伺っている。
そして、帝塚くんだけは変わらない態度でアカネちゃんに話しかけていた。
「アカネさん、この先にペンギンがいますよ」
「……そうなんだ」
「………」
気のない返事を返されて、ギロリとわたしを睨み付けてきた。
あー……一応わたしのせい、なのかな。
アカネちゃんに支配された右腕に、ドクドクと心臓の音が伝わってきた。
「アカ……辻さん……」
わたしにとっては朗報でしかないのに、葬式みたいな顔つきでいられても困るよ。
わたしはただ、いつもみたいに楽しく会話する推しカプが見たいだけなんだけどな……。
「ん? なに? 佐久良さん。っていうか今、アカネって言おうとしなかった!?」
パッと顔を上げて、期待に染まる目を向けられる。
やば、咄嗟に呼んだから、心の中が漏れちゃってた。
「い、言ってないよ……」
「いーや! 言おうとしたね! これからもアカネって呼んでよ!」
アカネちゃんの目はキラキラと輝いている。
……そんなことで、アカネちゃんの元気が取り戻せるなら。