キミは当て馬、わたしはモブ。


 水族館が楽しめてしまった。


 気付いたときには腕にぶら下がっていたお土産の袋。


 スマホに残る写真の山。


 その中にある、みんなで撮った集合写真。


 笑顔の、帝塚くん……。



「解散しましょう」



 水族館を出た帝塚くんの第一声だ。


 あの意味のなかったスケジュールの紙には、水族館の続きがあったはずなのに。帝塚くんはその予定を取り止めたのか。


 妙な違和感。


 だってさっきから帝塚くん……ずっと笑ってる。


 気持ち悪い。



「わたしは、いいけど……。二人は? まだ行きたいところとかない?」



 わたしは、アカネちゃんと中村くんの二人に目線を向けた。


 元々行く気はなかった。早く帰りたいって考えてたんだから、わたしは特に反対しない。



「ううん……。また、遊ぼうね?」



 アカネちゃんはわたしに近付くと、そっと服の袖を引っ張った。ちょっと上目遣いで、寂しそうに眉を下げている。


 ひ、ひぃっ……可愛い……っ! なんでわたしにばっかりそんな表情を見せてくれるの!?


 そして、くるっと体の向きを変えて、帝塚くんを見た。



「帝塚くん、今日はありがとう! あのね……本当に友達になりたくないわけじゃないの。だから、また全然話しかけてね!」


「わかりました。あなたと友達になれるように、頑張ります」


「あ、あはは……。うん、あたしも、努力してみる……」



 変な会話。


 なのに、なんでこんなに平和なんだろ。

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