嘘つきとカゲ。
それからの記憶が、正直僕には無い。
気づいたら病院に居て、包帯を巻いたお母さんとじいちゃんが僕のベッドのそばに座っていた。
お母さんとじいちゃんが言うには、僕が助けを求めたあの家からは大学生の男性が出て来てくれて、お母さんを襲った犬を追い払ってくれたらしい。
後々分かった事だが、あれは飼い犬で、飼い主が謝罪に来たらしい。
治療費も払ってくれるのだとか。
『僕、なんで…』
『その家の玄関先に倒れてたんだよ。きっと彼が優子さんを助けたのを見て安心したんだろう。仕方ないさ、あんなにたくさんの血を見るのも初めてだろ』
じいちゃんが少し笑うと、隣に座るお母さんも苦笑いした。
『格好良く空を守るつもりだったのに、結局良いところは大学生のあの子が持ってったわね』
ふふっと笑って僕に笑顔を見せた。
格好良くとか…、そんな事、どうでも良い!
『ケガは!?お母さん、ひどいケガだった!血がいっぱいで!ねぇ、大丈夫なの!?』
少し焦ったようにお母さんに問いただすと、お母さんはなおも笑顔で続けた。
『落ち着いて、空。大丈夫よ。思ったより浅い傷だし、傷なんて人間だもの、すぐに直るわ。おじいちゃんだって足のケガ治ったでしょう?』
『うん…』
『まぁすぐに今まで通りとまでは出来ないから、ご飯は少し不味くなると思ってね』
クスクス笑うお母さんとじいちゃんにつられて、僕もようやく少し笑みを零した。