23時41分6秒



私の前で取り乱すことは決してなく
いつも穏やかな笑顔で笑っていたけど、
母を一人にしてでかけると
部屋の中が壊された思い出の品々で
散乱していることがたまにあった。


思い出の品の破片をひとつ拾う度に
断片的に脳裏に浮かぶ
懐かしい記憶に思いを馳せながら
黙って片付けていた。


そんな私に母は何度も


「ごめんなさい」


と呟いていたけど


私は何も言わなかった。

何もいえなかった。


なぜなら母はとても可哀想な人だから。

私以上に辛い思いをしてきた母の
気持ちを全て理解できる訳がない。


だからありきたりな慰めの言葉を
口にすることはしたくなかった。


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