23時41分6秒
レストランのいつもの奥の部屋で
席に着くと、メニューも開かずに
彼はトマト薫ハンバーグをふたつ頼んだ。
店員が部屋から出るのを見届けると
彼は私を見て笑顔で言う。
「茉莉花さん。お誕生日おめでとう」
そして足元から赤い薔薇の花束を
差し出した。
「ありがとうございます」
両手で受け取り、花束を胸に抱くと
甘い香りがした。
男性から花束を貰ったのは初めて
だった私は、嬉しくて思わず
笑みが溢れる。
「喜んでもらえてよかったです。
貴女の笑顔、初めて見ました」
「…そうでしょうか?」
「最初は緊張なのか警戒なのか、
距離を感じていました。
会う度に少しずつですけど、
表情が柔らかくなっていくのが
僕は本当に嬉しかった。
今、笑顔を見ることができて
幸せです。
これからもずっと笑顔でいてください」
そう言って彼は少し照れた様子で
俯いた。