23時41分6秒
しばらく舗装された山道を登ると、
視界が開け、展望台が見えてきた。
目の前には星空のような夜景が
広がっている。
「やっと着きましたね」
彼は、展望台を囲む木の柵に両手をつき、
一息ついた。
ここが私の人生の終わりの場所か。
きっとここから突き落とされて
しまうのだろう。
ならばもう、私の方から終わりにして
しまおうか。
そっと彼の背後に近づく。
柵の高さは彼の腰上までの高さしかない。
それにここは崖で、下には森が
広がっている。
一度で思いっ切り突き飛ばしてしまえば、
木に引っかからない限りは即死だ。
そしてすぐ、私もここから身を投げて
死んでしまおう。
やっと母の元へ逝くことができる。
彼の灰色のジャケットを着た背中に、
ゆっくりと伸ばす私の手は震えていた。
どうして震えてしまうのかわからなかった。
早く突き飛ばせと頭の中で声がする。
それとは裏腹に、失敗できないという
緊張に心は支配され、身体はこれ以上
前に進まなかった。