23時41分6秒
そのまま動けずにじっとしていると、
急に彼が振り返った。
驚きのあまり、発してしまいそうに
なる声を抑えたが、体がビクンと
反応してしまった。
一瞬、硬直した体が再び震え
始めている。
「寒かったですよね?
気づかずにすみません」
「いえ…大丈夫です」
そう言って伸ばしていた手を軽く
お腹の前で握ったが、まだ震えていた。
すると、彼は灰色のジャケットを脱いだ。
一瞬、彼の匂いがふんわりと
私の周りを漂い、温もりと共に
肩を包んだ。
彼は、私にかけられたジャケットの
襟を掴んでいた両手を離した。
そして優しく微笑んだ。
その優しい微笑みで、胸の中に
罪悪感が広がってゆく。
その罪悪感は、一度殺そうとした人間に
優しくしてくれる彼に対してなのか?
それとも、復讐を誓った母への
ものなのかわからなかった。
この罪悪感のどちらかの理由を
選ぶとしたら、頭に従うか、
心に従うか決断するようなものだった。