23時41分6秒



しばらく見つめ合ったまま沈黙が続いた。

彼の瞳が微かに揺れて、ジャケットの
襟を掴む手を離した。


「僕からのもうひとつのプレゼントです」


そう言って彼は左手を差し出した。

躊躇いながら恐る恐る伸ばす私の手を、
彼の左手が迎えに来て優しく握る。

木の柵へと近づきながら、
彼の親指が私の親指をそっと撫でて、
指の腹に二度、指の関節がぶつかった。

そして包み込むように長い指が
折り畳まれた。

行き場を失いぶら下がる指を、
彼の手の甲にそっと添える。


彼の隣に並んで目の前に広がる
星空のような夜景を眺めた。

もう夜も深いのにまだ街は
眠ることを許されない。

繋がれた彼の手はとても温かく、
私の手はしっとりと汗ばんでいた。

手を緩めようと少し力を抜き、
掌を浮かせると、すぐに彼の掌が
追いつきぎゅっと包まれた。

彼の横顔は赤色に染まっていた。

夜景よりも、繋がれた手ばかり
意識してしまっていた。


彼が見せてくれた純粋で美しい
感性への愛おしさを感じたこと。

彼を突き飛ばし、殺そうとしたこと。

この手を通じて彼に伝わってしまい
そうで怖かった。

その恐怖は、久し振りに触れた人肌の
温もりに溶かされていった。


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