その人は俺の・・・
・プロローグ

トントントン……到着。ふぅ、と。
だっ!?びっくりした……。なんだ、この状況…。
あまりにも不意をつかれて驚いた。…誰だ?なんだ?
我が家を前にして気は完全に抜けてる状況だった。あるはずのないモノに遭遇した場合、驚いても悲鳴のような声が出るものではないと俺は初めて実感した。しかも割と冷静だということも。
驚きの元、それは、小さく丸まった微動だにしない塊、人間だった。膝を抱え顔を伏せていた。スカートを穿いている…女性だ。見覚えはない…多分。女性が部屋の前で待ってるなんて……通常だとしても、俺にはないことだ。今までだって…皆無だ。
……何なんだ…。よく解らないが俺に用で待ってたのか…それとも具合でも悪くなって偶々座り込んだのか…。それにしても…よく解らないな。…得たいが知れない。知り合いでもなさそうな人間が…何故ここに居るんだ。それに何故、人の気配を感じて顔を上げない…。階段を駆け上がる音だってしたはずだ…あっ。意識がないのか…?だとしたら、不味いぞ。とにかく、声をかけてみるしかない。
なるべく優しく声をかけたつもりだ。

「あ、あの…、ちょっと?大丈夫ですか?こちらの部屋の方ではないですよね?具合でも悪いのですか?」

ここは俺の部屋なんだからな。本当は問答無用、退いてください、て言いたいくらいなんだけど。

「…」

無視、か、な。…生きてるよな………。

「ちょっと…?」

あん゙。肩を揺らしてみようかと伸ばした手を慌てて引き戻した。まずい、安易に触れては駄目かも知れない。場合によっては救急車か?そんなことになったらちょっとした騒ぎだ…。

「あの、ちょっと?すみません、ここ…」

聞こえてる、よな。も゙う、いい加減にしてくれよ、俺の部屋なんだよ。しかも一人暮らしなんだから。…意識がない訳じゃないだろ?手だって組んでるし。まさか……おい、……死んで…固まってるのか?嘘だろ?……ゴク。

「……放っておいてください」

ぁ…は?…声出るんだ…なんだ、生きてるじゃないか。いや、放っておいてくださいって、それじゃこっちは困るんですけど。人の部屋の前を占拠してる訳だし。ドアが開けられないでしょ?こっちは、はぁ、……さっきから、退けよ、と言いたいのをなんとか堪えてるんだよ。…はぁ、まぁ、うん、ここは一息……落ち着こう。直ぐ言葉を返すと乱暴になってもいけない。……ふぅ。

「あの、ですね。放っておいてと言われても、ここ、俺の部屋なんですよ。解りますよね?ここは俺の部屋なんです。せめてドアの前、空けてくれませんか?」

丁寧に言うのにも限界というものがあるんです。手荒なことはできない。そりゃ?抱えて退かすことはできるよ?だけど、乱暴に扱って騒がれでもしたら…こっちが犯罪者扱いだ。このご時世、反対に訴えられかねない…。具合が悪いんだとしても、なんで階段直ぐの部屋でもなく、俺の部屋の前なんだ。しかも三階までなんて、上がって来るか…。来ないよな普通。……一体なんなんだ。

「ここ、私の部屋です…」

は?!何言ってる。俺が間違ってるとでも言うのか?そんなはずはない。間違いなく三階だ。俺、の、借りてる部屋だ。…間違いないよな。
そっちが建物自体間違ってるんじゃ?昨日、今日の話じゃない、俺はもうずっとここに住んでる。……同棲なんてこともなく、ずっーーと一人で住んでるんだ。…頭でも打ってるのか?それとも……なにか?ひょっとして新手の……。押し売り的な…サービス……。いや、いやいや…こんな、普通っぽい人がそんなこと…。こんなややこしいやり取りなんてせず…逆に迫ってくるよな。ん゙ん゙。…よく解らないが。
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