その人は俺の・・・
「愛生さ~ん」
追いかけた。
「は、い。どうしたんですか?」
「…ご飯、食べて帰る?」
「あ」
「変に最初から小細工しなくていいと思うんだ。ほら、絢子さん?出張だったから、絢子さんとご飯したって、もし何かで確認されたら、そう言えば大丈夫なんじゃ…」
今日の習い事は一度終わりにした。もう別れたんだ。無理にとは言わないけど。…何だか色々あったらいいのに、みたいに期待させた部分もあったから。
「…駄目、ドキドキしちゃう。恋じゃないの。怖いの。もしもがあったら、私…」
「怖いって、暴力?」
「直ぐ暴力とか、そんなことではなくて…。上手くいってると、怖いの。何か、代わりに失うんじゃないかって」
あ……そんな経験があるのか。そうじゃないとそういう考え方にならないよな。
「俺ごときと、なにが上手くいったなんてないですよ。じゃあ、ブラブラちょっとだけして、肉まん買って食べましょう。その程度なら、何も失わない、怖くないですよ、ね?」
「うん。でも…」
「あ、人目のこと?誰かに会いそう?」
「ううん。それは樹君は恥ずかしくない?…私なんかとこれ以上長く居るのって」
「何を言ってるのか…解んないな。これはデートで、俺は彼、なんだし。それに私なんかって言わない方がいい。自己肯定は低くしちゃ駄目です。じゃあ、いいんですよね?時間も場所も」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、また歩くけど、足、大丈夫?ヒール、痛くない?靴擦れとかしてない?」
「大丈夫。慣れたヒールだから」
じゃあと言って手を繋いだ。
余計なこと…したかもしれない。