その人は俺の・・・
「あ゙っつ。…熱。熱いよ?大丈夫?……はい」
入れてもらった袋ごと掴んで割った。割った先から湯気が上る。それだけ外気は冷えていた。吐く息も白くなってきた。
俺の分は素手で掴んで取り、渡した。
「有り難う…わ、ふかふか、いい匂い…美味しそう」
「美味しいと評判の専門店ですから。大丈夫?恥ずかしくない?」
「うん、大丈夫。……頂きます。ぁ、ぁ」
はふ、はふ、と音が聞こえて来そうなほど、一口頬張った肉まんが熱かったようだ。
「肉のあんが、熱いんでしょ。大丈夫?」
まだはふはふしてる。
「………ん、はぁ…。いきなり真ん中を食べちゃったから、熱くても戻せないし。……思った以上に熱々だった」
「ハハ、ベロってならなかった?」
口の中って、開けて指をさした。
「大丈夫だと思う。でも、美味しい……。この味は忘れられないかも」
あ。……なんて人だ…。
充分、こんなことをしなくても自然に恋愛ができる人だ。
「…あ、ほら、まだ残ってるし、もう冷めただろうから、食べてしまおう?」
「うん」
こんな人混みの中、一組の男女が熱いといいながら肉まんを食べていても何も目立ちはしない。そこここでみんな同じようなことをしてるからだ。熱っ、熱っと言ってるのは俺らだけじゃない。もっと賑やかなカップルだっている。帰って食べる夕食前、歩き回って小腹が空く時間だ。
土産物に目を向けていたり、店員の呼び込む声が響いてたりして、人が注目すべき物は沢山、分散されてる。
「ずっと、この通りを奥までそぞろ歩けば、きっと目新しいことばかりだと思います」
あなたにとってこういう賑やかな通りは今まで縁がなかったと思う。だけど、これ以上は行けない。今日はほんの入り口止まりだ。
「…凄い人ね。土産物売り場も多いけど、普通に、普通の買い物をしに来てみたい…。きっと楽しくやり取りしながら買い物ができるわよね。わくわくしちゃう」
この人は本来、お喋り好きで人が好きなんだな。
「…帰りましょうか」
「うん、……名残惜しいけど」