その人は俺の・・・
・episode1ー恋を知らないー

カ、チャ。

「ふぅ……有り難う、…冷えたからだと思うのよね…」

にこやかな顔で出てきた。あ…なんだよ、ホッとしたのか…突然フランクだな…。さっきまでの頑固さ?不機嫌?とは大分違うな。冷えたかどうかなんて、こっちはそんなの知らないし。いや、トイレの為に居たの?……なんかなぁ…それは違うような…。違うよな…。

「さっきはごめんなさい、頑固で変なおばさんで」

「え、あ、まあ…」

なんだ…解ってるじゃん。急に素直になったんだな。まあ、トイレ使わせてあげたんだし…。これならここに居た訳も聞けるかも。いや、理由なんてもうどうでもいい。用が済んだらもう帰ってもらっていいんじゃないか?

「じゃあ、もう…」

どうぞ、お帰りください。

「大丈夫よ、間に合ったから汚してないからね」

そんなこと…。そこは聞いてない。……間に合ったっていうならそれでいいよ。

「…あの、…あっ」

ペタッと床に座り込んでしまった。…おい…帰らないのか?それとも…どこか体が辛いのだろうか…。ソファーの座る部分に背をもたせた。俺を真っ直ぐ見てきた。

「なぜここに居たのか、なぜあんなことを言ったのか。ついでにあなたは誰ですか?って感じ?」

「あ…まあ、はい。あー、いや…」

もうどうでもいいんだけど、そんな風に言うより…そう思ってるならスッと言ってくれた方が早いんだよ…。

「……」

……え?話さないの?この期に及んでまだだんまりですか?今のは何のために言ったんだ?
じゃあもういいから帰ってくれよ…。こっちはもうあなたが誰だろうとどうでもいいですから。…しかし、頬どうしたんだ。…体は?体はそんなことにはなってないのか…。もし体もなら、実は痛みで動けなかったとか……だったのか…?。……事件か?逃げて来たのか…?そんなのに関わるのはごめんだ。
なんだか、部屋中、…視線を巡らせて眺めている。……何だ…殺風景な男の部屋が珍しいのか?

「あぁ、あの、コーヒーでも飲みます?」

あ……俺は何を……買い置きもないのについ言っていた。…はぁ、なんなんだ、俺…。

「いいの?どこの誰かも解らないのに。トイレも済んだんだから、もう帰れって言っていいのに」

…。はぁ、やっぱ面倒臭い人なんだ。じゃあ…分かってるならさっさと退散してくれよ。…遠慮しないか?普通。用は済んだ……だったら、ってことでしょうに。……仕方ない、言った以上、買ってくるか…。

「下、コンビニなんで、知ってますよね?ちょっと買って来ます」

はぁ、何なんだ。俺も何なんだ…。嫌味に聞こえたかな。…一緒の空間に居たくないだけか。行ってる間に帰ってくんないかな。

「行ってらっしゃい」

…はあ?……お見送りとか…がー…なんなんだよ本当、この人…。

「…あ…直ぐ戻りますから、直ぐです」

行ってらっしゃいとか言われなくても行きますよ…。帰ってくださいって、言えばいいのに…。なんだよ、もう。俺、サービス、し過ぎじゃないの?
今時ありえないよ…。
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