その人は俺の・・・

カチャカチャ。ガチャ。

え?

ピンポ~ン。

「愛生~?……愛生?ごめん、開けて~」

あ…。そんな。

「はい!」

玄関に走った。

ドアの隙間から夫の顔が見えた。

「あなた…びっくりしました。…直ぐ…」

「ごめん。早く終わったから、驚かせようと内緒で帰って来たんだ。ごめん、ちゃんとチェーンがされてて安心したよ」

「一旦閉めますね…」

…こんな風に帰ってきたことはなかった。本当にびっくりした。
ドアを閉め、少し戸惑いチェーンを外した。

「あぁ、愛生…。ただいま」

…抱きしめられた。酔っている訳ではなさそうだ。戸惑った。

「あ、お疲れ様です。どうしましょう、ご飯は?」

「うん、ご飯はいい、大丈夫だ。向こうを出る時、相手先に誘われて済ませたから」

「そうですか」

「急いで帰って来たから、今回は何も土産がないんだ。すまない」

「あ、そんなこといいんですよ。お仕事で行ってるのですから」

「…ん、愛生……」

「あ、…あなた」

こんなところで…。夫の手がセーターの中に…。

「コ、コート、鞄、預かります。寒かったでしょ?」

「ん、それほどでもなかった。こっちは寒かったのか?」

あ。

「今日、お天気が良くなくて…日中、肌寒かったです」

…あ。

「愛生、寝室に行こう」

こんな……初めてされた。抱き上げられてしまった。

「恥ずかしいです、あ、の、お風呂は?支度、しましょうか?」

「愛生は?もう済ませたのか?この格好だとまだだろ?では一緒に入ろうか」

「え?」

そんなこと、初めて。

「……今更…恥ずかしいです。若くもないから」

「なに言ってる。愛生はまだ若い。それに…綺麗だ…。益々綺麗だよ…」

え?……余計なことを今考えては駄目。
…ん…。夫の冷たい唇が私の唇を覆った。
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