その人は俺の・・・

寒くなり始めた今頃、シャワーだけというのは夫は極力しない人だった。それが…。

先にシャワーを出すと、服を脱がされた。急いで夫もスーツを脱ぎ捨て、逸る気持ちを抑えるようにシャツや下着を脱いだ。

「愛生…」

一緒にシャワーを浴びた。…どうしてこんなことを突然したのか。……もしかして、疑ってる。何も変わりがないか、私をチェックするため…?。

「あ、自分で…」

夫はポンプを押し、掌で細かく泡を立てた。泡立てられたソープで、くまなく…丁寧に洗われた。

「寒くないか?」

「…はい、大丈夫です。あの…恥ずかしい、もう…」

止めて欲しい。

「愛生、これからは風呂も一緒に入ろう」

…どうしたのだろう、何か、出張先であったのかしら。
こっちは、特に、何も…あやしいことはないはずだもの。

自分の体も洗うと、抱き上げられ溜まった浴槽に入れられた。

「…ふぅ…大阪で会った仕事関係の人が言うんだよ」

「え?」

後ろから回された夫の腕の中に居た。

「たまには一緒に風呂もいいもんですよって。うちは子供が居ない、できないだろ?だったら、気を使わないといけない時間帯もない。その人はね。やっと子供が手を離れて、家を出たそうなんだ。だから気兼ねなく夫婦の時間が持てるようになったんだって、恥ずかしげもなく私に言うんだよ。私より歳も上なんだけどな」

それで影響されて?こんな話…鵜呑みにしていいのだろうか。

「私は愛生が堪らなく愛しいんだ…。家に居る時しか一緒に居られない。帰りも遅いことが多い。睡眠時間を除けば数時間しかないだろ?こうして風呂も一緒に入れば、交わる時間も増える…」

…あ。

「沢山触れたいんだ、愛生に」

…これから毎日一緒にということになるのだろうか。それは…。
わたしが先に入っておけば多少は違うかも知れない。

「こんな私だ。…よく覚えていて欲しい」

……牽制?
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