その人は俺の・・・

朝、怠い体で目を覚ました。
夫は眠っている。

……こんなに…沢山…。夫の思いのようなもの。体のあちこちにつけられていた。
バスローブに手を伸ばし手を通して前を合わせていた。
軽くシャワーを浴びて朝食を作り始めないと。…あ、夫は今日はまだ大阪だったはず。戻って来たということは、今日は半休なのかも知れない。そう思っていると後ろから抱きしめられた。

「……いいよ、ゆっくりで。ごめん、昨夜いい忘れて。午後から出るから」

やはり、そうだ。座っていた体はゆっくりと倒された。

「…いつもの時間通り目が覚めたのか。愛生はどんな状況でも習慣づいてるんだな。……いい奥さんだな…」

寒いだろと布団を掛けられた。
こんな会話、労るようなことを言ってくれる夫に、何が不満があるんだろうって、なるに違いない。不満ではない。そんな考え方をしたらきっと罰があたる。不満は何もない。
ただ、自我を出さず、従っていること、その結果がいい奥さん…。

身寄りのない私を妻として迎えてくれた夫に、不満などあるはずはない。我慢?するほどのことも何もない。
愛され、妻としての務めを…ただ続けているだけ。

私が育った園に、夫は多額の寄付をしてくれた。私は園を出る年齢になった時、夫の遠い親戚に養女として籍を入れた。その後、夫と結婚をしたのだ。
親戚に籍を入れてからしばらくあのアパートで暮らした。
仕事をして、自炊をして…。贅沢できるほどの収入はなかったけど、元々質素倹約で育ってきたから何も苦はなかったし。生活に必要な物だけあれば、余計な物など要らないと思った。
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