その人は俺の・・・
親が解らない、どこの誰だか解らない。誕生日さえ、本当の誕生日じゃない。そんな私を…なぜ夫は妻にしたのか。いまだに聞いたことはない。…知らないなら知らない方がいいということもあるからだ。
「愛生…」
愛生という名前は園の人がつけてくれた名前だ。愛、生きる、こういう境遇におかれた人間につける名前らしい気がした。愛を知らない人間に愛だなんて。
「子供、欲しいと思ったことはないか?」
「ありません、一度も」
外見も、…中身も、完璧な夫だと思う。ただ、夫は、子供のできない体だと聞いている。
それは結婚前にきちんと聞かされていた。100パーセントとは言わないけど、多分無理だろうと。
別にだからといって何も気にはならなかった。子供をもうけることができたとして、私のような者が子供に愛情を注げるのか…そんな思いもあった。
子供をもうけられない夫の運命。一緒になることになった私の境遇。それも運命だと思った。
そうじゃなくても、この結婚は断れるような状況ではないことくらい、私でも解っていた。
何不自由のない結婚生活を送っている。
だから……恋したことないなんてこと…胸の高鳴りを求めること、…なくても生きていける、生きてる…だからとても我が儘な話だ。
「んん。私が子供のようなものだな…。愛生がいないと私はどうにかなってしまいそうだ」
私のどこにそんな価値があるのだろう。
男の人というものは、こんなしっかりした大人でも、時に気を許し、甘えられる相手が欲しいものなのだと教えられた。
…気を許しているのか、どうかは、……やはりそこまでは解らないかな。
「愛生ほど素敵な女性はいないよ…」
まるで誉め殺しだ。だから、何も言えなくなってしまう。