その人は俺の・・・
「愛生、今年の誕生日はなにがいい?」
特に希望を言ったことはない。何も欲しいと思わないから。だからいつも夫が考えたもの、ことをしてくれる。
「いつも気を遣ってもらってます。気忙しい時期ですから、特にお気遣い頂かなくても大丈夫ですよ。何も要らないです。…幸せは頂いてますから」
「いつもそんなできたことを言って。…ねだってくれないのも寂しいものだぞ?」
冷静過ぎてつまらないですよね。
「……では…その日は早く帰って来てください」
無理だと解っていること、なぜ今回、『欲しいもの』を言ったのかも解らなかった。でも、潜在意識だ。夫にばれたくないことをしている。それを守りたくて、夫の気に入ることをしたのだ。
それは出張前もそうだった。……夫が求めるままに、応えた。いつも抗うこともないのだけれど、出張前は、以前は早く休むと言ってどちらかと言えばしなかった。
それが一昨日の夜は違った。早く休むどころか…何度も求められた。
…どうしてもそれが、何かあるように思えて…不安になった。
その内、こそこそ何をしていると、問い詰められるのではないかと。
……何もありはしない。浮気でもない。では何だ、と問われたら、何と答えればいいのだろう。
自分より若い男と遊んでいるのか、遊び?遊びではない。では、まともな教室なのか。それも、違うのか。
人が聞いたら、鼻で笑われるようなことをお願いしてしてもらってる。
……いつか、それは誤魔化しで本当は解ったものではないと。そう思われた時は言い訳も何も聞いてもらえないのだろう。
…確かに、今までに感じたことのないドキドキを経験させてもらっている。その程度のことで?ということが心弾んで、楽しくて堪らない。それは間違いない。
「……愛生、…嬉しいよ。その日は何がなんでも早く帰ってくるようにするから。…食事にでも行こう」
あ…私の言葉が夫をこんなに喜ばせている…。
「いいえ、早く帰って来てくれるのなら、それ以上は何も要らないです。あなたがそこに沢山労力を遣っていただくのですから。申し訳ないくらいです」
「…愛生。…本当に欲がないな…」
こんな歯の浮くようなことも、言うつもりじゃなかったのに。膨れ上がりそうになってるこの気持ちをおさめるためだと思った。
不安とときめき…。どちらも競い合うように同居している。