その人は俺の・・・

樹君は静かに眺めてゆっくりとページを捲っていた。ちゃんと興味を持って見てる。私は……見てるのか見てないのか、ほぼ上の空だ。見てるのは図鑑ではなく樹君だ。

横から手が伸びてきた。ページを捲っていた手に手探りで指先が触れた。わっ。声が出そうになった。何?この触り方。そう思っていたら探り当てられてギュッと掴まれた。樹君…全然こっちは見ていない。そのまま下に下ろされ、膝の上に乗せられた。
………。もう、本なんて見ていられない。
触れるか触れないかの肩も気になる。全身が心臓と同じ…体温も急激に上昇する。

(…どうです?この静けさが、いけないことしてる気にさせるでしょ?)
隣で囁かれた。
(そんな不純な気持ちで本を見てる人なんてここにはいないから)
なんとか囁き返した。
…その通りなんだけどね。不純なのはさっきから私なんだから…。益々ドキドキしちゃう。

フッて鼻で笑うのが解った。…もう、……駄目だ、…私。あるところから急に加速する気持ち、それが解った気がした。
今は、樹君のすることが気になって仕方ない。そして、期待してしまう。…次は?…きっと、自分がもっとドキドキするって。それを待ってる。

ん?て見られた。私が見てたからだ。
慌てて顔をそらした。

……どうしよう、心臓がうるさい…静まれ!…ドキドキが止まらない。
眼鏡をしていることも忘れて、思わず両手で顔を覆った。
カチャカチャと眼鏡がずれた。
あぁあと、声がしたと思ったら、ずれた眼鏡を外された。
(どうせ見てないなら外しとけば?)って。
机に置かれた。
…はぁ。…もう、今はどうでもいい。どうしてしまったのかってくらい、ドクドクと胸が高鳴っていた。
私史上、最も非常事態だ。
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