その人は俺の・・・
「本当に愛生さんはびっくりしたんですね…」
「…ごめんなさい」
「まさか、悲鳴をあげるなんて思わないから。…俺が悪いんです」
「…ごめんなさい。…私です」
さっきまでのこと。
まだ予定では図書館に居る時間だ。だけど、私が…。
本を返して別のに代えようと立ち上がった樹君が不意に眼鏡を手にしてかけてくれた。ただそれだけのこと。あろうことか、落ち着きなくときめいてしまった私は、キャーッと、悲鳴をあげてしまったのだ。
その結果、注意され、出された訳だ。
「かけますよって、言えば良かったですね」
「ううん、それじゃあ、ドキドキが半減してしまうもの…。私が過剰に反応してしまったの…」
「じゃあ、行為そのものはあれで良かったんだ。凄くドキドキしたんだ」
「うん。…そうなの」
もう、今日はなんにでもドキドキしそうなのよ。
「視力、凄く弱い?」
「あ、んー、それほどでもないかも。裸眼でも判別はつくから」
「じゃあ、眼鏡、外しましょうよ。危ないときは俺がカバーしますから」
それって、躓いたら手を差し伸べてグッてしてくれるってこと?……これ何って、見え辛いものを聞いたら、どれって顔を近づけて聞いてくれるってこと?………。
「…凄い…それは凄すぎるから」
「え?」
「あ、ううん、何でもない。何でもないのよ」
…はぁ、妄想が勝手にいい方に暴走しちゃう…。
「フ。今日は妄想が過ぎますね」
「…そうなの。…え?…バレてたの?」
「そりゃあ、バレますって。こっちはそれを現実にしてるんだから」
バレてたんだ。…恥ずかしい。