その人は俺の・・・
携帯が震えてる。きっと樹君からだ。…今は…見ることができない。まだ冷静じゃない。何度読み返しても字を追うだけで頭には入って来ないと思う。あぁ…。私ったら…。
せめて家に帰るまでは。…考えないようにして…落ち着かなくちゃ。
…言っちゃった…どうして言っちゃったんだろう。言ったら駄目なのに。そんなことは取り決めになくても解ること。好きになっては駄目なのよ。教えてとお願いしたけど、本当の恋愛をしてください、とは…それとは違う。違うのよ。それは駄目だもの。
……忘れなくちゃ。きっと忘れられる。ドキドキは充分教えてもらった。させてもらった。しかもこんな短期間で。色々、考えて…そしたら冷静になれるから。…会ったのは4回。内、教室は3回。それだけでドキドキしちゃったのよね。免疫がなかったから効きやすかったのかな。…フ、そうかも知れない。…私は…簡単ね。
とにかく今は、慌てて返事をするのは止めておこう。
間違いのない文章を送れるように。間を取った方が無難…。
…はぁ。もう、会えなくなっちゃうよねきっと。気まずい…というより、そういう感情を持ってしまっては成り立たないから。最初から無理なことをお願いしてしまったのよね。ドキドキしたいなんて。そんなの感じちゃったらドンドン惹かれちゃうんだ。そういうものだってはっきり解った。それは恋することでは当たり前のこと、…好きの始まりってこと。
…。
携帯を取り出した。
『絢子さん』…はぁ。メールはやっぱり樹君だ…。
とにかく、家に帰るまでは見ないでおこう。
帰って、慌てて出て来た後片付けを先に済ませて、…落ち着いて…それからだ。まだ夜まで時間はたっぷりある。
人生初のスープカレーは未体験のままになった。あんな状況にしておいて、澄まして冷静になんて、食事はできるものではない。当然。これはこれ、さっきのはさっきのって、そういう訳にはいかなくなることを言っちゃったんだから。
あ、次でおりないと。
眼鏡を外して携帯としまった。