オオカミさん家の秘密
「こっちに来て。」
私は千星を連れてあるホテルに来た。
大神財閥が経営しているホテルだ。
「…僕の名前は殺し屋Wolf。
依頼があったら本当は殺さなきゃならないんだけど…」
「…?」
そりゃ不思議だよね。
世界NO.1の殺し屋が目の前にいて、殺される恐怖があるのにこんな所に連れてこられるんだもんね。
「相川千星、僕はキミを殺せない。」
「え?
…どういうこと?」
…こんなの回りくどくてあんまり好きじゃないんだけど…
「その理由を言うために僕はキミをここに連れてきたんだ。
…聞いて欲しい。」
「…うん」
千星の中で殺し屋Wolfと大神狼はイコールで繋がれていないだろう。
全くの別人だと思っているはずだ。
…それを利用する。
「大神家のことは知ってるよね?」
「うん…」
「僕は大神家に仕えている専属の殺し屋だ。」
…間違ってはいない。
だって事実、私は大神家専属の殺し屋だから。
「大神家の令嬢からね、キミは殺してはならないって言われているんだ。
…余程大切な友人なんだろうね。」
「…狼ちゃんが…」
この気持ちは嘘じゃない。
こんなに大切に思うなんて知らなかったんだ。
友人ってこういうことなのか。
「…だからね、今僕は仕事を遂行する。」
私はポケットから依頼書を取り出す。
「相川千星、僕はキミを殺した。
…ということにし、大神家に連れ帰る。」
父さん、怒るだろうなあ。
そんなの想定内だ。
折檻も、下手をすれば手を挙げられることも想定済み。
タダでは済まないだろう。
「…行くよ。」
この依頼を受けた以上、千星はこのままではいられない。
相川千星という人格を消さなければならない。
「…えっと…今から行くってことですか?」
「ああ、深いことは考えなくても大神家の坊ちゃんから説明があるだろうよ。」
…こういうめんどくさいことはしたくないんだ。
私は大神家の裏口から空いている部屋に千星を入れる。
「…じゃあ僕は頭に報告して坊ちゃん呼んでくるからここにいてね。」
千星が頷くのを確認して私は先に虎の所に向かった。
「虎。」
「どうした。」
「空き部屋に千星がいるの。
今日の殺しの依頼の内容は千星殺害。
私は依頼を遂行しなかった。
父さんに言ってくるから上手いこと説明しといて。」
「は?おい…」
なにか言いたそうにしてるけど無視。
…さてと…
ーコンコン…
組長室の部屋の扉をノックする。
「狼か?」
「ああ」
「入ってこい。」
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