オオカミさん家の秘密
私は言われたとおり、組長室の中に入る。
…正直言い難いけど仕方ない。
依頼をこなさなかったのは私だから。
「報告か?」
「…私は今日、任務をこなさなかった。」
「理由は?」
「相川千星は私にとって大切な友人だからだ。」
…前まで人を殺すことに躊躇いがなかった。
今回が初めて。
相手が千星だったからだ。
千星は失いたくない、私の大切な友人だ。
父さんはため息をひとつつく。
「だから今回の案件、狼が渋ってたのか。」
「…?」
「お前は表情が変わらんが、親子だからかわかる。」
父さんは私を見て微笑む。
「無表情なお前だが、相川さんを思う気持ちは充分伝わった。
相川さんを保護し、我が家に居候することは手伝おう。
だが、学校でのことは狼がするがいい。」
「…あ、りがとう…」
「何をそんなに驚いた顔をしておる。
こんな私だが狼の父親だ。」
顔は変わってないつもりなんだけど。
「怒ってないのか?」
「何の話だ?」
「組の頭として、殺し屋である私を叱責する所じゃないのか?」
父さんがそんな甘くてどうする。
「怒るわけがなかろう。」
「…は?」
「狼に出来た友達だ。
大事にしなさい。」
「…はあ…」
まさか、お叱りも何もうけないとは…
ある意味驚きすぎてなんとも思わん。
とりあえず千星のところに行くか。
ーガラッ
「あっ…狼ちゃん」
1度、部屋に寄って着替えてきた私。
「千星、話は聞いたよ。」
「…あはは…これからどうして行こう…」
「安心して。」
私は千星の頭を撫でる。
「世間での千星は死んだことになってる。」
「…うん。」
長いまつ毛に縁取られた目が伏せられる。
「相田千穂。」
「…?」
「今日からこれが千星の名前。」
「え?」
「この屋敷にいる時は千星って呼ぶ。
この屋敷から1歩でも外に出たらあなたは相田千穂。」
この部屋に来るまでに何度も考えた千星の新しい名前。
私がこの姿で学校に行って、話せば通用する。
だってこの素の姿の私は大神財閥の令嬢なんだもん。
「…千星のクラスは私と同じになるように手配するから安心して。」
「なんでそこまでしてくれるの?」
なんで?
そんなの私だって知りたい。
なんで私はここまで千星に甘いのか。
「さあ?」
…ただ興味がある。
周りの子達がしているみたいに友達と他愛のない話をしたり。
帰り道に寄り道したり。
私だって普通の女子高生おみたいな生活送ってみたい。
…だからかもしれない。
< 16 / 25 >

この作品をシェア

pagetop