オオカミさん家の秘密
「いやいや、本当に狼の仏頂面怖いから。」
「そうか。ところで何用だ?」
「そんなに急かさないでくれ…」
自分の机からいそいそと資料を出してくる父さん。
見つからないのか探している。
…少し、話をしてみるか。
「…なあ」
「どうした?」
「今の私って、記憶が無いのか?」
…前にも話したこと。
6歳以前の記憶がない。
…何故記憶が無いのか。
記憶を失う前はどんな女の子だったのか。
そして、お兄ちゃんはどんな人だったのか。
私は全てを知りたい。
心にぽっかり空いた穴が気になる。
「…そうだな、今の狼は記憶を失ってから作られた。」
第2人格とでも言うのだろうか…
「昔のお前は本当に可愛くて誰にでも愛想良く喜怒哀楽がハッキリしている女の子だった。」
「…」
「そして誰よりも私のことを尊敬していた。」
…父さんのことを?
私が?
「仕事が休みの時は決まって私の膝の上に乗ってきてな、私の傍から離れなかったんだ。」
今では考えたことないな。
「お前の兄の虎と夜もすごくヤキモチを妬いていてな。
やはり兄妹の中で唯一の女の子だからか、すごく甘やかされて育てられていたよ。」
…末っ子だからなのか。
「まあ、夜も事件に巻き込まれて今でも行方が分かっていないのだけれどな…」
…我が家にまた兄妹が集うことはあるのだろうか…
…手の空いている時に探ってみるか。
「夜、は…どんな人だったの?」
「とにかく笑顔で兄妹思いの優しい子だったよ。
夜が居たら虎ではなく夜を跡継ぎに、と考えていたくらいだ。
それくらい優しく、聡明な賢い子だった。
…桜に似たのだろうな…」
…確かに母さんは優しい。
「お、見つけた。」
…やっとか…
探し当てられた資料は既にしわくちゃで読みづらい。
「頼むよ。」
「ああ。」
私は部屋を出て自分の部屋へ。
「…クーン…」
…ん?
なんでここに赤虎が…
「どうした?」
「キャンッ」
廊下をポテポテ歩いていた赤虎。
私を見つけて嬉しそうに寄ってくる。
赤虎毛でとっても可愛いの。
「よう。」
「おう。」
廊下を歩いていたら虎とばったり。
「俺さ、嵐王に潜入してみようかと思う。」
「は?」
空いた口が塞がらない。
「千星から情報貰うだけじゃ正直分からないから潜入する。
俺、狼みたいに忙しいわけじゃないから…」
…これは好都合だな。
「…ふむ。
いいのではないか?
千星のことも任せるわ。」
私も仕事に集中出来てちょうどいい。
「よし、そうと決まればちょっと着いてこい。」
「は?」
私は虎を連れて元きた廊下を戻る。
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