オオカミさん家の秘密
気になってるんだよな。
相川千星のこと。
嵐王のこと。
力になれることなんてないもんなあ…
俺はただ、父さんが敷いてくれたレールの上を歩いているだけ。
俺自身にはなんの力もない。
狼は違う。
敷いてくれたレールの上を歩きながらある程度前を見据えている。
「坊ちゃん、頭がお呼びです。」
「部屋か?」
「ええ。」
父さんが俺を呼ぶ時は決まっている。
…依頼が入った時だ。
「次はこの者を排除してくるように伝えてくれ」
「…分かりました。」
写真と依頼書を俺に手渡す父さん。
「…頭、1ついいでしょうか?」
「なんだ?」
「…なぜ、狼に直接言わないのですか?」
昔から疑問だった。
もう殺しのプロになるくらい手際のいい狼。
俺を挟んでやり取りしている2人のことが気になって仕方ない。
「…狼は、私を恨んでいるだろう。」
「…?」
「あの子の耳が聞こえなくなった理由と関係があるんだよ。」
狼の耳と関係あるのか…?
狼はあまり耳のことを話してくれない。
左の聴覚…
「気になるなら赤目に聞くといい。
一部始終を見ていた彼奴なら分かるだろう。
…私にはわからんのだよ。」
赤目。
父さんの側近だ。
今は確か…病気で寝込んでいるんだったか。
父さんの側近、父さんの右腕となって動く殺し屋。
赤目さんが今、動けないから狼が殺し屋として動いているんだ。
…この部屋、だったか…?
ーコンコン…
軽くノックをしてからそろりと襖を開ける。
大神家は和風作りだから全て襖だ。
「赤目さん…失礼。」
「…?
…坊ちゃん?!ゲホッ…」
「あー、横になってて。動かなくていいから。」
赤目さんの体は前見た時より弱ってる。
「…坊ちゃんから訪ねてきてくれるなんて珍しいですね。」
20年近く、父さんの側近の殺し屋として動いてきた赤目さん。
「聞きたいことがあって。」
赤目さんは…女性だ。
「なんでしょう?」
母さんがいない時、いつも母親替わりになって甘やかしてくれた人。
「…狼と父さんのこと。」
「…お嬢様と旦那様のことですか。」

襲撃を受けたのは今から10年前。
俺と狼がまだ6歳の時。
確かそれくらいから狼は訓練を受け始めたんだっけ…
あの日襲撃してきたのは父さん。
…に成り済ました父さんの兄。
俺たちのおじさんだ。
赤目さんはあの日、俺らを守るのに必死だった。
なんとしてても助けなければならない。
おじさんはナイフを俺に刺そうとした。
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