恋はオーロラの 下で
海老原さんからのメールは超短文であった。

「来春のトレッキング・フェスタに参加しないか?」

とたったこれだけだ。

余りに素っ気なく

愛想がなく

言葉の優しさもなく

単なる目的のみだ。

登山中は共有できる気持ちが多少あった気がしたが

返信はしないことにした。

なぜなら悔しい思いがあったからだ。

私を一人の女性として見てもらえていない

ただの登山オタクとしか見られていないことに悲しい気持ちだった。

月日が経ち、時間を経て一歩引いて冷静になって考えてみると

それは社交辞令的な当たり障りのない文面であり

感情面を刺激するようなものが一切ないことに

相手への配慮が見て取れた。

私はそのことに気づき

彼の内面の一部を少しだけ理解できたのではないかと思うようになった。

冬の休日は春の山々を回りたい一心で

ウェブ上の画像に酔いしれた。

北岳と北駒ヶ岳は必ず登りたい山リストの上位になった。

南アルプスは私の憧れであり

山頂からの眺めに含まれる神聖なオーラのようなものを全身に浴びてみたい

山を想うそんなロマンチックな部分が自分の中にあった。

それは誰にも知られたくない自分だけの欲望でもあった。


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