恋はオーロラの 下で
その後、山頂へは順調に歩けた。

私は吊り橋でのアクシデントは意識して考えないようにして

途中で休むことなく山歩きに集中した。

山頂ではロッジを中心に周囲にぐるりとフェンスが巡らされていて

360度遠くまで見渡せられるようになっている。

あちこちのベンチやロッジ内では皆それぞれに持参した軽食をとっていた。

レストランやカフェ、売店はなく

お手洗いと見晴らし台だけの山頂である。

山頂からは次へと連なる山々へ登山道が続いているため

ここを休憩地としてさらにトレッキングが楽しめる。

それには更なる装備が必須だ。

野営できるテントやランタン、水・食料等の重量物を担いでの道のりとなる。

ふもとからの難関ルートをなんでもなくクリアしてきたベテラングループは

リュックの大きさが相当あった。

私は彼らが笑顔で雑談しているのをちらちらと見ながら

持ってきたチョコクッキーを温かいお茶で喉に流し込んだ。

吐く息が完全に白いのは気温が氷点下である証拠だ。

「何時に下りる?」

と声をかけられた。

吊り橋で助けてくれた男性だった。

橋の揺れでぶざまな自分をさらしたことに情けないと思いながら

再度お礼を言った。

「先ほどはありがとうございました。」

「いや、それより急に気温が下がってきた。沢で濡れたから余計わかるよ。」

「靴は防水ですよね?」

「一応ね。念のためさっき靴下を履き替えておいた。」

「お一ついかがですか?」

手元のチョコクッキーを差し出した。

「いや、甘いものはダメなんだ。悪い。」

「では、辛いものなら大丈夫ですか?」

リュックからメントールが強いタブレットの粒を取り出して見せた。

「辛いものね。もらうよ。ありがとう。」

「13時のリフトに乗る予定ですので、もう少ししたら下ります。」

「どのルート?」

「吊り橋以外のルートです。」

「なるほど。よかったら難関ルートをフォローするよ。」

「えっ?」

私は目を輝かせて相手を凝視した。

「よろしいのですか?本当に?」

声が少し震えた。

「問題ない。」

「ありがとうございます。」

突然のことで嬉しくて涙目になってしまった。

「おいおい、なんでもないことだよ。もしよかったらと思って言っただけだから。」

「嬉しいです。では早速支度します。」

ボトルをリュックに入れ

お手洗いを済ませにロッジへ向かった。


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