逃げる彼女に甘い彼 ~my sweetheart~
そう言うやり取りをする日が、その日から数日続いた。

名前も知らないその人は時折泣きそうな顔をするので、
「お仕事大変なんですか?」と思わず尋ねた。
仕立てのいいスーツを着ているし、日中のこんな時間にいるということは
仕事の合間の息抜きなのだろう。
いつもブラックコーヒーを飲んでいる様子は疲れていそうだ。
私の質問に、
「そうだね。部下に恵まれて、おかげでここで休憩出来るよ。」
「すごいな。私も社会に出て働きたいって思ってたけど、25歳なのに未経験。
昔はパートナーと一緒に歩きたいから、力を自分につけていたいって思っていたのに。
ぜんぜんダメダメで大人になったみたい。
日々の日課が散歩っておばあちゃんみたいだな…。」
「体調はどう?」
「やっぱり具合悪く見えますか?しばらく入院してたらしくて。
随分体力ついたって言われたんだけど…。
早くつかないと、海外旅行連れてってもらえないんです。
昼寝ばかりして、太ったんだけどな…。」

そんなとりとめのない話。
また次の日も彼はいた。
時折、会話をして数日後。
近くを救急車が走る音が近づいてきて…。その音に凄く動揺した。
動悸して、目眩がして、頭がズキズキ痛んで、涙がボロボロ出て、ベンチに座っていて立ち上がったらフワッとなって倒れそうになった。
瞬間
「芽衣!」
誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。

そのまま意識はどこかへ消えた。
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