逃げる彼女に甘い彼 ~my sweetheart~
どれくらい眠っていたのだろう。背中が痛い。

枕元に誰かが座っている。気配はあるのに目が開かなくて、
気だるくて、開けると怖い何かが襲って来るような感覚がして動けなかった。
枕元で
「芽衣、芽衣。」
と呼ぶ声。懐かしい香水の匂い。
目を瞑っているあいだに、走馬灯のように甦る記憶。
痛くて、苦しくて。
目を閉じたまま、涙がポロポロ流れて。

誰かが手を握るのが分かった。
その誰かが目を開けなくても今なら分かる。
どうしているの?
色んな事を聞くのが怖くなって息が出来ない。
呼吸が苦しくなって、彼が背中をさする手が暖かくてまた涙が出た。

すぐに医師がきて診察。
記憶のピースが埋まって、全て思い出した事を告げた。

病室には誰も入らないようにお願いして、今までのことを考えた。
すごいな。嫌な事って都合のいいように忘れて蓋が出来るんだと。
人間ってズルイ生き物だ。

あの騒ぎから数ヶ月が経って今更彼は何をしに来たのか…。

母が病室にきて
「蓮さんと話しする?
芽衣が記憶がない時も、仕事の合間をぬっていらしてたの。遠くから見守りたいって。
彼なりに言い分があるんじゃない?
あなたも最後まできちんと話さずこんなことになったでしょう。
前進するためにもよく考えて。」
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