逃げる彼女に甘い彼 ~my sweetheart~
「それでは、ご一緒させて下さい。」

このレストランバーで食事するだけだ。
危ないこともないだろう。
仕事ぶりでも聞いてみよう。
社内の女性陣が彼にキャーキャー言う根拠を探るのにいい。
人間観察とばかりに、同じテーブルに着くことにした。

さっきまでの挑発的な態度と違って、テーブルで食事を始めた彼との会話は
話題も豊富で思いのほか楽しかった。
経済学を学んだ私に話題を合わせてくれてるのか、知識も豊富で
普段私が趣味でやっている投資の参考になった。
海外で仕事をしていただけに振る舞いもスマートでワインにも詳しい。

桐生さんは蓮レンとだけ名乗り、私は九条とは言わず芽衣とだけ名乗った。
向こうは私のことを九条家の娘と認識しているだろうが敢えてそれには触れず、
私は桐生さんと同じ会社だとは思っていないだろうから敢えて知らない振りをして
蓮さんとだけ認識した。
25歳の女と29歳の男がたまたまこの夜、食事を楽しむ一時。
媚びられることもなく、媚びることもない。

気づくともうすぐ22時。
思いのほか楽しかった。

「そろそろ失礼します。楽しかったです。」

「こちらこそありがとう。美味しいお酒が飲めたよ。」

タクシーを呼んでもらい、見送ってくれた。
電話もメールも聞かない一時のお相手。紳士的な態度に好感が持てた。
まあ、この後どこかへ出かけ行くのかも知れないけど。

あれだけ九条令嬢風なら、会社モードの地味女はバレることはないだろう。
より、静かに会社では過ごそうと誓った。
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